13 理想的な優等生師弟 アバンとマァム 

 

 アバンとマァムの出会いは、4、5年前。アバン27、8歳、マァムが11、2歳の頃だ。
 ネイル村に訪れたアバンは、旧友の娘であるマァムを実に自然な流れで弟子としている。


 回復魔法や防御魔法、それに武道を習ったという発言があるのが、興味深い。
 剣術や槍術ではなく、あえて武道を教えたとは、アバンは最初からマァムの中の武闘家の才能を見抜いていたとも思える。

 アバンがネイル村にいたごくわずかな間だけと修行期間はごく短かったようだが、マァムは別れの際アバンにちゃんと卒業を認められている。
 ここで面白いのは、アバンがマァムに魔弾銃を与えたことだ。

 マァムは素直に、自分が魔法を使えないのを補うためにくれたと思っていたが――単純にそうとばかりとは言えないだろう。
 そこには、アバンの深慮遠謀が隠されているような気がしてならない。なぜならこの魔弾銃は、呪文を入れてくれる人間がいなければ、武器としては役に立たないのだ。

 つまり、アバンは言外にこう言いたかったのではないか――自分一人で頑張るのではなく、他者にも頼りなさい、と。周囲を危険で囲まれた村の中でただ一人、戦闘力として期待できるだけの力を持ち、また幼い内からその期待に応えようとしている少女を見て、アバンは先々を危惧したのではないかと思えてならない。

 僧侶戦士の頃、マァムは回復の能力を持ち、そこそこ以上の戦闘力を獲得していた。
 だが、これはかなり中途半端な能力だ。
 雑魚ならともかく、強敵相手には手も足も出まい。そこにさらに、多少の魔法を使えるバリエーションを増やしたところで、戦力としてはさしたる意味は無い。

 後にマァムもより高い攻撃力を求めて武闘家に転職したように、専業をしっかりと持っていなれば、余芸は活きてこないものだ。
 というよりも、魔弾銃は一人での戦いでは本領を発揮しない武器だ。

 マァムが一人で使う分には、これはせいぜい苦手な遠距離攻撃を補うぐらいの意味しか持たない。
 これはサポート役が手にしてこそ、初めて威力を発揮する。陽動や攪乱、不意の援護などバリエーションを広げて主戦力を援護することが可能なのだ。

 マァムはもらった時から壊れる時までずっと自分で使っていたが、もし信頼できる相手に魔弾銃を渡したならば、それが一般人であってもそれなりの戦力にはなる。どちらにせよ、魔弾銃を活かしたいのなら、自分を補佐してくれる人に渡すにしても、また自分が補佐役に回るにしても、第三者の手が必要なことだけは間違いないだろう。

 他人を守るために、一人、強くなろうとする努力家の少女の意志を殺ぐことなく、だが、いつの日にか彼女が自分の意志で、自力で頑張るだけではなく仲間と協力しあう道を選ぶことを望んでいたと考えるのは穿ちすぎだろうか。

 ところでアバンとマァムは正義や優しさを信じる心の持ち様も似ているし、信頼関係も厚く、行き違いや隠し事もないという、まさに師弟としては理想的な関係だ。使徒の五人の中では最も優等生的な師弟関係で問題もないのだが――問題がなさ過ぎるのが逆に問題というべきか。

 出会いの時のマァムの年齢――まだ子供だが、そろそろ初恋の一つもしようかという年齢である。

 男の数が少ない平凡な村にやってきた、年上の優しくて素敵で、しかも美形で柔和な外見に似合わず強さを秘めた旅の青年!
 これだけの条件がそろっていれば、世間を知らない小娘ならばそれだけでときめいて、初恋をしそうなものである。

 だが、実際にはマァムには微塵もその気配が無い。
 アバンを先生と心から慕ってはいるものの、どうもマァムには仄かにでもアバンに初恋の感情を見せることはなかった。

 これはマァムの乙女心に問題があるのか、あるいはアバンの男性的魅力に問題があるのか、どちらに責任の所在を求めるかは、悩むところである(笑)


  
  

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