15 サディスト師匠に、意地っ張り弟子 マトリフとポップ

  

 アバンが自分の後をついてきたヒヨコを、本人さえそうと気がつかないように自由に歩かせながらも、少しずつ、少しずつ導こうとする方針で弟子を育てようとしていたのだとしたら、マトリフは真逆だ。

 自分に翼が生えていることも気がつかないで甘えてばかりいる雛鳥を、断崖絶壁からいきなり投げ捨てるような育て方をしている。

 マトリフは、ポップには最初から厳しかった。
 ポップ本人が弟子入りしたいと言ったわけでもないのに無理やり教えを授け――というか、押しつけている。

 元々、世捨て人であり俗世に興味を持たないつもりだったマトリフがダイ一行に力を貸したのは、古くからの友人であるアバンへの感情が大きく関係している。アバンの遺志を受け継ぐダイに助力するため、マトリフが目をつけたのが、ポップだった。手っ取り早くパーティをレベルアップさせるなら、魔法使いを鍛えるのが一番早いと判断した彼の目は確かだ。

 そして、マトリフは目的のためには最短手段をとる傾向がある。
 究極的に甘く寛大だった先生に比べ、鬼のように厳しく容赦のない師匠。

 だが、この両極端な指導を受けたことで、ポップは短期間で格段にレベルアップを果たしている。

 アバンに対しては頼りきり、甘えが強かったポップだが、マトリフの厳しさに対しては依存心よりもまず、負けん気が発揮された。なんとしても自分を認めさせようと意地を張り、ムキになって修行に打ち込むようになる。
 それが幸いしてポップは急成長を遂げたとは言え、その結果、彼は禁術にまで手を出すようになってしまったのだが。

 長期的な展望でポップを育てていたアバンと違い、マトリフはやたらと急ぎ、急き立てるようにポップを育てている。

 それは世界の情勢が急変したせいもあるだろうが、マトリフの寿命が残り少ないという事実も少なからず関係しているのだろう。……単に性格のせいとも、考えられるけれど(笑)

 そして、マトリフは単にポップの魔法力を鍛えるだけでなく、心構えも叩き直した。
 15年前、勇者一行の魔法使いだったマトリフは、その存在の重要性を身に染みて承知している。魔法使いは単に戦うだけでなく、戦況を読み、味方を補佐する役割をも兼任する存在だ。それをこなす人間がいるのといないのとでは、一行の戦力そのものに大きく影響が出るのだから。

 元々、ポップはアバンからあらゆる意味において基本は習っていた。
 魔法についてもそうだが、知識面についてもそう言える。

 ポップはアバンから教わった知識を披露するシーンがあちこちであるが、その中には敵陣の中での戦いの知識も含まれている。充分に基礎を蓄えさせるまでがアバンの教えならば、マトリフはそれを発揮するに相応しい方向性を指し示した。

 ポップが迷いを見せようものならどやしつけてでも先へと進ませ、ギリギリのところまで彼を追い詰めるという、とんでもなく荒っぽい教育方法ではあったが、これは教え手側にも勇気と相当の覚悟のいる教育方法だ。

 さらに言うのなら、相手に対する絶対の信頼がなければとてもできない教育でもある。
 互いに口の悪いこの師弟コンビ、口を開けば相手をけなす言葉ばかりが出てくるが、信頼関係は相当に厚い。

 なにせマトリフがポップに与えたのは、本人でさえ威力が強すぎて使用をためらうような呪文、メドローアだ。制御を一歩間違えれば使い手の命に関わる上、悪用はもちろんのこと、使い手が些細なミスをすれば味方すらも巻き込んで全滅させかねないこの呪文を教える際、マトリフは伝授をためらわなかった。

 それこそ、ポップの倫理観や判断力を充分以上に信じている証明と言える。
 マトリフの過酷なまでのスパルタの裏には、ポップ本人と、そしてポップを育てたアバンへの強い信頼と期待が垣間見える。

 そしてポップも、その期待に応えるように次第にマトリフを尊敬するようになり、アバンとは違う形で師と仰ぎ、慕うようになっていく。

 手放しで甘えることができ、頼りきりにできるアバンと違い、ポップはマトリフにはちょっと意地を張った態度をとるのが面白いところ。

 まあ、マトリフの方もポップを実の息子のように思い、その才能には内心舌を巻いているくせに口を開けば半人前よばわりしているのだから、似た者師弟というべきか。それでも、この師弟が意地を張った態度の下に、強い信頼関係を築いているのは疑いようがないだろう。

 最終決戦前夜、最大の葛藤の際にポップが無意識にマトリフに助けを求め、だが、それでも甘えを見せずにそのまま立ち去るシーンが、特に印象的だった。
 
 

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