16 出会いが遅すぎた勇者師弟 アバンとダイ

 

 アバンとダイの出会いはデルムリン島でだが、それは偶然ではなかった。
 アバンはパプニカ王家から、将来の勇者候補の少年がそこにいるから鍛えて欲しいと以来されて、わざわざやってきたのだ。

 しかし、話は少し横道に逸れるが、この時、アバンがやってくるタイミングと、どこから来たのかが実に大きな疑問である。

 なにせ、アバンは魔王が復活し、怪物が暴れだすと同時に島に訪れた。
 しかし、彼らは瞬間移動呪文を使わずに小船で島までやってきたのだが――となると、パプニカ王家はどうやって魔王復活前に、その存在や効力を知っていたのやら(笑)

 さらに、アバンと一緒にいたはずのポップが、パプニカの位置も知らなければ王家の人間に会ってもいないのも、思いっきり疑問の種であるが  まあ、この際、話を元に戻そう。

 元々勇者になりたかったダイは、相手の立場や思惑を気にすることなく、自分を勇者として鍛えてくれる人にあっさりと懐き、全力で修行に打ち込んでいる。

 アバンをはるかに凌ぐ潜在能力を持ち、他人の忠告や教えを素直に受け入れ、独力でもぐんぐん伸びていく勇者の資質の恵まれた弟子。
 アバンにとってダイは、まさに理想的な弟子と言えるだろう。

 そしてダイの存在は、アバンを今の役割から開放し、念願をかなえるために不可欠な存在でもある。

 大勇者と呼ばれ、実際に15年前に魔王を倒したアバンだが、実は彼は自ら勇者と名乗ったことはない。
 それどころか、それを嫌っている傾向すら見受けられる。

 さらに、勇者を育てるために15年間も家庭教師をやり続けたところから見て、アバンの意図や目的が見えてくる。
 つまり、彼は『勇者』ではない。

 世間的評価でどうであろうと、アバンは自分で自分を勇者とは認めてはいないのだ。
 実際に、彼の能力は賢者に近い。剣技のレベルが高いから勇者としても充分に活動できたが、それは運良く魔王のレベルが低かったからなんとかなったようなものである。

 昔のハドラーは倒せても、バーンには手も足も出なかったアバンは、決戦の前から自分の実力不足を誰よりもよく承知していた。

 彼の望みは、自分が勇者として世界を救うことではなく、世界を救うべく勇者の補助を行うことだったのだろう。だいたい、15年前に凍れる時の秘法をつかってハドラーを封じた戦法からして、自分以上の存在に後を託すまでの時間稼ぎ的な意味合いが強い。

 もし、アバンが若く、まだ勇者と呼ばれる前の頃にそれに相応しい資質を持つ人間に出会えていたのなら、彼は全力でそのサポートに回ったと思える。

 だが、幸か不幸か、15年前にアバンは自分以上に勇者の役目をこなせそうな人間に出会えなかった。その後、出会った弟子達も、それぞれ素晴らしい資質は持っていても、勇者ではなかった。
 そんな中で、アバンが出会ったのがダイだ。

 家庭教師を始めてから15年も経ってようやく、アバンはやっと自分を『勇者』の座から開放してくれる新たなる勇者と出会えたのだ。だからこそアバンは、ダイとポップを守るために自分の命を投げ出すのを厭わなかった(結果的には、生き残っているが)

 勇者と呼ばれた青年こそが、誰よりも一番勇者の存在に望みを掛け、その力を信じていたのだろう。
 ただ、惜しむらくは、アバンとダイは関わり合った時間が短い。もう少し時間があれば、アバンは自らの手でダイに自分の技の全てを教えられただろうし、強い絆を獲得もできたはずだ。

 勇者の役目を降りれば、アバンはおそらくは本来の『剣技が得意な賢者』に戻って、名サポーターとして勇者一行の中心として活躍もできただろう。
 だが、アバンは自分の活躍の場をなげうってまで、ダイ達の可能性に賭けている。

 死んだふりをして成長を促す作戦なんて、下手をすれば大失敗に終わるだけなのだが……考えれば、結構ギャンブラーである(笑)

 だが、ダイと直接絆を結べなかったとは言え、アバンのしてきたことは間接的にダイに大きく影響を与えている。

 ダイにとって、アバンはたった三日間だけの師とはいえ、その存在は決して小さなものではない。むしろ、ダイはアバンを亡くした後の方が、彼についてよく知り、考える機会に恵まれている。アバンを慕い、彼を尊敬する人達に会うことで、ダイはアバンの代わりに勇者となろうとする意識を、強く持つようになる。
 その筆頭になるのが、ポップだ。

 アバンの死を嘆きまくり、彼の教えや存在を常に意識し続けているポップが側に居れば、ダイがアバンを軽視するはずもない。

 ダイやポップがそれをどれだけ意識しているか分からないが、ダイのアバンへの尊敬や傾倒は、ポップの思考に大きく影響されていると思われる。

 直接教えを授けた期間が短く、なおかつ離れていた時間の長いアバンとダイは、もし出会いがもう少し早ければまた違った形の師弟関係だったかもしれないと思うと、遅すぎた出会いがちょっと残念だ。
 
 
 

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