19 太陽の戦士と月の戦士 ダイとヒュンケル

  

 偶然から心優しい怪物に拾われ、育てられた捨て子――それが、ダイだ。
 そして同じく、偶然から心優しい魔物に拾われ、育てられた孤児――それが、ヒュンケルの境遇だ。

 似たような境遇を持つこの二人だが、面白いことにほぼ正反対と言える性格の持ち主達だ。
 ダイが実に天衣無縫で真っ直ぐな性格ならば、ヒュンケルは複雑に屈折した性格。

 誰をも信じ、すぐに打ち解けるダイに対して、ヒュンケルはひどく警戒心が強く、味方にもなかなか心を解けない性格――と、ひどく対照的な存在である。

 年齢も一回り近く違う上、共に行動することも少ないダイとヒュンケルだが、戦いの場での息の合い方はぴったりだし、実に良好な兄弟弟子と思える。

 ……が、そう見える裏には、ヒュンケルの並々ならぬ気遣いや努力があるのを見逃してはならない。

 ヒュンケルにとって、復讐心に囚われてアバンを恨み、その後継者であるダイを殺そうとした過去は、決して忘れられない罪だ。
 彼の戦いの動機は、主にその贖罪のためと言っていい。

 まあ、おおらかであまり物事に拘らないダイは、ヒュンケルのその拘りもさして意識せず仲間だと単純に受け入れているが、ヒュンケルの方はそうはいかない。

 誰にも断罪されなかったにも関わらず、それでも自分を許せなかったヒュンケルが贖罪として選んだのが、アバンの意志を継ぐ者への徹底した助力だ。ヒュンケルは常に一歩、下がった場所からダイ達を見守り、身を挺してでも助けようとする姿勢を常に取っている。 ヒュンケルはダイがその場にいれば彼を優先し、自分は援護役にまわるのだから、息が合うのもある意味当たり前だろう。

 ダイが太陽なのだとしたら、ヒュンケルはあえてその影に隠れ続ける月でいようと心に決め、控え目に行動しているような印象すら受ける。
 そして、ダイの方にも実はヒュンケルに対する遠慮が存在する。

 ヒュンケルと初めて戦った際、ダイはヒュンケルの境遇を聞かされてひどく同情を感じている。当時、ダイは自分が竜の騎士だと知らなかったが、それでも怪物達と暮らしている自分が、普通の存在ではないと知っていた。

 そんな自分の同類に初めて会えたのだ、共感を抱き、理解し合いたいと望むのも当然だろう。
 だが、敵だったこともあり、出会い当初は分かり合うなんて不可能だった。

 その上、仲間になってからも、ヒュンケルには遠慮という見えない壁が存在し続ける。
 ヒュンケルから見ればダイに親しみを感じていないわけではないのだが、いかんせん彼は人間付き合いの経験が薄く、ひどく不器用だ。

 ダイもダイで、人間、怪物、敵味方分け隔てなく誰でも受け入れられるようでいて、自分を受け入れてくれない相手に対しては、安易に感情をぶつけることができない。

 結果、二人とも互いを認め合いつつ、親しみを感じているのにも関わらず、薄皮一枚を挟んだようなちょっと遠々しい兄弟弟子という関係に落ち着いてしまっている。

 だが、ヒュンケルの遠慮という大幅な壁があるにしても、彼らが互いに信頼しあう土台を築いているのは、確かだ。
 基礎さえしっかりとしているのなら、後は時間の問題というものだろう。

 個人的には、ダイとヒュンケルがもう少し打ち解け合い、本音をぶつけあえるシーンが欲しかった気がするのだが。原作中、唯一ヒュンケルがダイに頼み事をするシーン――キルバーンの後を追ったポップを助けてくれと頼むシーンが好きだっただけに、その後のダイとヒュンケルのエピソードなども見てみたかった。


  
  

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