21 正反対の身分違い嫌い同士 ポップとレオナ

  

 パプニカ王国の唯一の王位継承者であり、実質的な国の指導者である王女レオナ。
 片田舎の村ランカークス村の武器屋の息子であり、家出人のポップ。

 どう聞いても全く接点がなさそうなこの二人、共に『ダイの友達』という共通点によって知り合い、仲間になった。
 だが、レオナは出会った当初はポップに対する見方が厳しく、やたらと点数が辛い。

 ダイの仲間であり、自分やパプニカ王国をフレイザードから助けてくれた恩人の一人、という意味ではマァムやヒュンケルと同格なのに、この二人に比べて明らかにポップへの風当たりは強かった。

誰に対してもずけずけと言いたいことを言う遠慮のなさがレオナの魅力であり持ち味でもあるのだが、彼女はポップに対しては一段と遠慮がない。
 だが、それはポップを嫌っているわけでもなければ、認めていないからでもない。

 むしろ、それは逆だろう。
 レオナは元々、お姫様として特別扱いされるのを嫌う傾向がある。出会ったばかりの頃、ダイが自分を姫と呼んだ際も怒っていたし、マァムにも敬語で呼ばれるのを拒否している。
 レオナは自分が姫という身分を持っていることを充分に自覚し、その責任や重さを踏まえて行動する聡明さを持っている。

 だが同時に、一個人としての彼女は、身分によって人と人が隔てられ、距離をおく関係を快く思ってはいない。それだからこそ、レオナは公的な場以外では自分から積極的に、わざと遠慮のない振る舞いを見せては相手に『遠慮なんかしないでいい』と無言のうちにアピールをかけているのだろう。

 だが、レオナがいくらそう振る舞ったとしても、人はなかなかそこまで無遠慮にはなれないもの。やっぱり相手が姫だと、どこか気遣う気持ちが発生するのも無理はない。

 天真爛漫に見える自然児ダイでさえ、レオナが『姫』であることを無意識の内に意識してしまうのだから。
 だが、ポップは『姫』に対しても、遠慮を見せない。

 身分や立場を気にしないポップが拘るのは、あくまで自分が相手を気に入るか、気に入らないか、だ。

 それでも最初はお姫様に憧れていたはずのポップだが、レオナの遠慮のなさに対してすっかり憧れやら気遣いも覚め、短期間で平気でぽんぽんと言い返すようになっている。
 これは、レオナにとっては嬉しい対応だろう。

 例えるなら、今まで彼女はテニスで対等のラリーの相手を求めて、自分から積極的にボールを相手に打ち続けてきた、孤独な選手だった。

 しかし、相手は彼女の身分や、年齢離れして鋭いボールの角度に手を焼き、望むような形でボールを返してくれる者などほぼいなかった。

 そんな中、本気で、しかも遠慮なくボールを打ち返してくれる相手を見つけられたのなら、それを喜ばないはずがないだろう。
 しかも、ポップとレオナは身分は正反対ながら、思考の早さや洞察力のレベルが似ている。ちょっと相手をからかったりするのを好み、他人の恋愛話には敏感で興味を持つ辺りなど特にそうだ。

 意味も分からないまま、ただ単純にボールを返してくるだけのダイやマァムと違い、際どくコーナーを突きながらも続く、高度な会話ラリーを楽しめる相手として気が合うのも道理だろう。それはポップにしても同じことで、型破りなお姫様ながらも人の上に立つ者に相応しい風格を持つ彼女を認めている。

 ポップのレオナに対する信頼がはっきりと表れているのは、対バラン戦の際、ポップがダイを見捨てたふりをして離脱するシーンだ。
 あの作戦は、後のことを他人に任せる覚悟がなければ成り立たない。

 相手を十分に信頼していなければ、打てる博打ではないのだ。
 ポップの裏切りにレオナは激しく憤り、王女として振る舞う姿勢を身につけている彼女にしては珍しく、感情をむき出しにした短絡さを見せている。

 ポップを突き放すレオナの態度には、人間全てを裏切った過去を持つヒュンケルや、非常時に食料を奪い合う部下達に見せた寛大さはない。考え直させるための説得さえろくにせず、いきなりポップを追い出している。

 その上で、レオナはポップが去った後に期待を裏切られたことをひどく嘆いている。
 この時点で、レオナはポップ自身に親しみを感じていた上、アバンの使徒として大きな期待すらかけていたのだと分かる。

 人間は、近しい人間に対してこそ、冷静さを失う。
 レオナほどの聡明さや洞察力を持っている人間でも、それは変わらないのだろう。面白いもので、ポップのこの裏切り行為こそがレオナの彼に対する評価を決定的に上げたと思える。

 この後、口先でのやり取りではレオナは相変わらずポップをけなすようなことを言う態度を取り続けるが、彼女の言動にはポップへの強い理解と信頼がみてとれる。

 バーンパレス突入の際、ポップがミナカトールを失敗した時に、戸惑いが先に立っていた他の3人と違ってレオナが悲しそうな表情をしていたのが印象的だった。ポップの失敗を不思議に思い、それでも彼ならできると信じて疑わない三人やメルルと違い、レオナにはあの時、彼の失敗を見た途端にポップの迷いを理解したのだろう。

 自力では超えられない壁を抱える苦悩を理解したからこそ同情し、それでもなおポップを信じようとした。
 だからこそポップを励ます言葉を言わず、ただ現状を説明し、実行を促した。

 その直後、ポップがやっとしるしを光らせた時も、ポップとレオナは即座にその魂の源となる力を理解した。心情的に強い繋がりを持つ信頼というよりは、高い理解力を持ち合うゆえに分かりあえる、同じ目的を持つ同志的な仲間――ポップとレオナにはそんな繋がりを感じてしまう。
 
 
 

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