22 誇りに目覚めた男達 ポップとクロコダイン

 

 元魔王軍軍団長、獣王クロコダインは、打倒勇者の先兵としてダイの前に真っ先に立ちはだかった強敵だった。だが、改心して以来、彼はもっとも頼りになる味方として、勇者一行の一員として活躍している。

 クロコダインがダイ達に力を貸すのは、もちろん自分を倒した勇者ダイに惚れ込み、武人として助力したいという気持ちがあるからだが、もう一つの理由が人間という存在だ。 クロコダインもまた、人間に惹かれた魔物の一人だ。

 単に個人の強さを求めるだけの魔物とは違う、人間の強さ――一致団結することができ、他人に優しさを与えることのできる人間の素晴らしさに目覚めたクロコダインは、その信念をずっと貫き通した。彼はたとえ感心できないと思う人間であっても無闇に否定せず、長所を見出だすことができる寛大さを持っている。それでいて恩着せがましさなど微塵もなく、相手が怪物である自分を怖がらないようにと配慮する心も忘れない。

 クロコダインの人間に対する賛歌はとどまることを知らず、また、人間をどこまでも信じ、守ろうとする姿勢は父親であるかのように寛大で深い愛情に満ち溢れている。

 本来は人間をひ弱で下らない生き物だと見下してさえいたクロコダインがここまで極端な人間派になったのは、ポップの存在があるからだろう。ロモスでの戦いで、ポップは絶対に勝てない相手であるクロコダインに命懸けで向かってきた。友達のために勇気をふり絞り、自分の身も構わずに必死にダイを助けようとしたその姿こそが、クロコダインの心を決定的に揺り動かした。

 一方、ポップからみれば、クロコダインは出会った時は恐ろしい敵だった。
 だが、敵でありながら誇り高い戦士であり、それでいて意志を通じ合わせることのできる相手でもある。

 ポップはどの戦いでも敵味方問わず自分の主張は言い、多かれ少なかれ会話を交わす傾向が強いが、クロコダインこそ最初に分かりあえた相手だった。

 たとえ相手が怪物であろうとも、主義や目的こそは違っても、また戦う相手であっても心を交わし合い、理解しあえた経験がポップに与えた影響は大きい。ポップは相手を説得しようという意思はさほどないのだが、和解を望む、望まないを度外視して自分の信念を敵にぶつけるようになるのは、明らかにこの戦いを経たせいだろう。 たとえ敵であっても、分かり合うことはできる、と――。

 元々差別意識の薄かったポップだが、敵から味方へと転じてくれたクロコダインの存在が、確信を強めてくれた。初めて自分を認めてくれたクロコダインに、ポップは好感を抱いているし、頼りにしつつもいたって気さくに接している。

 話の後半になれば、実力的にはポップの総合戦闘力はクロコダインを軽く上回るようになるが、能力差を理解しつつもポップの姿勢は変わらない。だが、自分のことには鈍いポップは、クロコダインのポップへの評価が変わらないどころか、どんどん高くなっていることには、全く気付いている様子もない。

 バラン戦の頃は、クロコダインはポップを信じていたとはいえ、まだ迷いがあった。だからポップの裏切りの演技にも騙されたのだが、鬼岩城戦の頃にはダイを見捨てて一人逃げていたポップを、躊躇なく即座に信じ、逃亡の手助けをする程に信じきっている。

 それは、クロコダインの戦法の変化にもはっきりと表れている。
 バラン戦の頃まではクロコダインはポップを押しとどめて庇おうとしたが、バーン戦の頃には戦いはダイやポップに完全に任せ、自らは盾になることを望んでさえいる。

 ポップがミストバーンに殺されたと思った時、一切の抵抗をやめ、もう希望もないとまで言い切ったクロコダインの嘆きを見れば、彼にとってポップが特別な存在なのは一目瞭然なのだが――まあ、知らぬは本人ばかりである(笑)
 
 

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