23 凛々しい王女達の目指すもの レオナとフローラ

 一国の王女であるレオナが尊敬し、憧れていると広言する女性――それが、カール王国女王フローラだ。

 レオナも弱冠14才で国をまとめ、世界各国に呼び掛けて世界の指揮者となる程の広い器量を持っているが、フローラの器量もそれと優るとも劣らない。

 15年前、16才だったフローラは病状の父親に代わって政(まつりごと)を行っていた。その年齢で国を背負うだけでも大変なのだが、魔王が攻めてきて人間を支配下に治めようとしていたというとんでもない状況だっただけに、大変さは察して余りある。

 それでいながら強大な敵にも屈せず立ち向かい、高い理念を掲げて人々を導き、自らを毅然と律して人々の尊敬を集める王女――レオナとフローラは、王族としての在り方がよく似ている。

 そこには、レオナのフローラへの憧れと、彼女の聡明な決断力が如実に表れている。
 年齢差もあり、治める国も違うこの二人の女性がここまで似たのには、おそらくは偶然ではない。

 レオナがフローラを模倣したと考えるのが正解だろう。
 いくら生まれながらの王族であり、女王の存在が世界で認められている世界背景があるとはいえ、弱冠14才で国王となるのはさすがに無理がある。

 しかも前パプニカ王は戦火に倒れたとあっては、ますます跡継ぎの問題を全てクリアしてから逝ったとは思えない。
 レオナには、突然、国の責任者としての重荷がのし掛かったのだ。

 しかも、1年前に司教であるテムジン、賢者バロンが裏切った過去を考えれば、ろくな側近がいないのは想像に難くない。忠誠心は強い三賢者も、まだ若いせいか政治的判断がろくすっぽできていない上に、嘆かわしい程に交渉能力や実力に欠ける。

 国を動かすという指針は、文字通りレオナが指し示さなければならない状況だった。
 そんな折、15年前に実際に魔王と渡り合い、勇者を導いて勝利をもたらしたフローラの存在は、レオナにとって良いお手本となってくれる存在として映っただろう。

 直接的な親交がどの程度あったかは定かではないが、自分の個人的感情よりも国を優先して守り導く姿を、レオナは理想の王族の姿と考え、自身もそれに近付けるように努力している。フローラの行動から最善の道を学び取り、レオナは指導者として振る舞う道を選んだ。
 それがはっきりと表れているのは、バラン戦直後、レオナがアバンの書を読んだ後の選択だ。

 後に実際にバーンパレスに行った時の発言からも、レオナがダイ達と共に旅をし、協力し合いたいと考えていたのは明白だ。
 だが、彼女はバラン戦の後、パーティを離脱して指導者の位置へ下がる選択を選んだ。
 レオナはあの時、悟ったに違いない。いくら回復能力に長けているとしても、一賢者として活躍するだけではダイ達の役に立てない、と。

 マァムの力不足を指摘した客観的冷静さを自分にも向け、実戦力としてよりも後方支援に徹しようと決断したのだ。
 そこまでの選択は、レオナはフローラと同じと言える。

 だが、フローラと実際に出会って以来、レオナは本来の奔放な性格を取り戻す。
 自分以上の指導力を持つフローラを無条件に信頼して指揮を任せ、自分は戦場に立つ選択肢を選んだ。

 それを薦めたのはフローラとは言え、彼女がレオナに求めたのはミナカトールの習得だけだ。呪文を成功させた後なら、戦いはダイ達に任せ、レオナは地上に残る選択肢も選べたはず。

 国を優先して考えるなら、唯一のパプニカ王族の生き残りであるレオナは戦いに参加すべきではない。
 だが、レオナはダイ達と運命を共にする道を選んだ。
 そここそが、レオナとフローラの差を明確に分ける点だ。

 レオナとは逆に、フローラは常に自国を最優先して考え続けてきた女性だ。
 愛する人と離れ離れになり、祖国が滅び、さらにはアバンが死んだと思っていた状況でさえも、彼女は自分の感情よりも国を、人間を守る道を選んだ。

 15年前、彼女はアバンの旅立ちを止めなかった。カール王国の指導者として、勇者が魔王を倒すのを望んでいたから。アバンに思いを寄せ、また寄せられたいたにも関わらず、彼女は彼について行ってはいない。

 破邪の洞窟に自らフローラが乗り込んだことを考えれば、いくら15年前とはいえ、彼女に戦う勇気や戦力がなかったとは思えない。フローラは自分の意思で、国を優先し守り抜く道を選んだと考えるべきだろう。

 自分の感情を抑えて冷静沈着に行動できるのがフローラの長所だが、それでいて彼女は普通の女性らしさも失っていない。

 15年もの間、世継ぎを望まれる女王という身分にもかかわらず独身を貫いてアバンを待ち続けた姿勢には、言葉にする以上に深い愛を感じさせる。

 国を大事にしながら、自分にとって大切な人を思う気持ちを失わない――その点でも、フローラとレオナは似ている。王女であり続けることに力を注いできたフローラにとって、おそらくレオナはかつての自分を思いださせる存在なのだろう。

 レオナを見つめるフローラの目は、他のメンバ−に対してよりも幾分柔らかく、親しみがこめられたものだ。年の離れた妹に対するように、フローラはかつての自分とよく似た立場でありながら、ある意味で自分以上の強さを持っているレオナが勇者と共にあろうとする姿を、優しく見守っている。

 ダイが帰還した際、レオナに勇者をしっかりと掴まえておきなさいと助言するシーンに、フローラがめったに見せない本音と、妹分への愛情が垣間見える。

 よく似た者同士とは言え、願わくば勇者を15年も待ちつづけるところまで、似ないでいて欲しいものだ。

  


  
  

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