24 世界の女王と世捨て人 フローラとロン・ベルク

 

 最強と言われたカール王国の指導者であり、レオナに代わってリーダーの役割を請け負った女王フローラ。

 かたや、大魔王バーンにさえ欲された程の凄腕の戦士でありながら、あえて士官を断って世捨て人となったロン・ベルク。最終決戦の際、ロン・ベルクは人間達に力を貸してやると申し出て、フローラはそれを受け入れている。ロン・ベルクには人間に味方をする義理など一つもなく、それは彼の気紛れに近い参戦表明だった。

 一見しただけでは、フローラがロン・ベルクの申し出を受け入れたのが、不自然に思える。
 なにせ相手は魔族であり、人間達はまさにその魔族と戦っているのだから。

 実際、ノヴァを初めとする兵士達は彼の不遜な言い方に感情的に反発を感じていたし、魔族である彼を恐れ、警戒心を抱いてさえいた者も少なくないだろう。

 もし、この時に多数決で彼の参戦を認めるか、拒否するか決めていたなら、ダイ一行以外はほとんど拒絶したかもしれない。
 だが、フローラやロン・ベルクには見えていた。

 戦力的に言えば、すでにこの戦いは人間側の負け戦だ。
 強者から弱者に、罠など仕掛けるまでもない。この申し出を断るだけの余裕など、実はすでに人間側にはないのだ。

 たとえ気紛れが発露だったとしても、心から信頼できない相手だったにしろ、無償、かつ無条件で助力を申し出てくれる相手を選り好みできる程、この時の人間達には人材がいない。

 ダイ一行という最強の切り札以外は全て雑魚に等しいと言える程に、一般兵士と勇者達の力の差は激しい。

 フローラ、レオナの尽力により、勇者がいさえすれば世界が救われると言う希望を周囲に持たせてはいるものの、実は戦っている本人達が一番よく知っている――この戦力差は圧倒的であり、勝つためには奇跡が必要なのだ、と。

 それを考えれば、魔物の手など借りないなどとプライドや感情を優先する余裕などない。戦況的には、たとえどんな引き換え条件を出されたとしても受け入れざるをえない状況だったのだ。

 事実、この時点でロン・ベルクを拒絶していれば、地上にいた連中は全滅していた可能性が高い。総指揮者として一般兵士達の犠牲を最小限に抑えるためには、フローラは罠や裏切りの可能性を恐れる以上に、確実な戦力をそろえる必要性があった。

 そして、人を見る目があるフローラの目には、ロン・ベルクが凄腕の武人であり、個人の思惑で動いているのがはっきりと見透かせたはずだ。
 しかも、本人が口にしている程、この申し出は安くはない。

 ロン・ベルクはバーンと個人的面識があり、一度は彼のために武器を作った人物だ。つまり、バーンから見れば、自分の配下が敵に回ったと解釈してもおかしくはない。

 単なる敵よりも、裏切り者にこそ人は強い怒りを感じるもの……ロン・ベルクは人間に味方をすることで、バーンの烈火の怒りを買う覚悟をしなければならない。

 本人は気安く、聞き様によっては人間を馬鹿にしているかのように軽く言っているが、これはロン・ベルクにとっては大きな代償を背負う上、全くといっていい程メリットのない申し出――つまり、人間にとって一方的に有利な、一種自己犠牲的なまでの善意を含んだボランティアな申し出だ。

 まあ、本人の態度が態度なだけに、この時、彼のその立場や思惑に気がついていた人間が何人いるかは定かではないが。
 だが、フローラはそれに気がついただろう。

 自分の投げ掛けた質問に対してのロン・ベルクの答えに、彼が語らなかった事情や思惑、そしてその奥にある彼の誠意を感じ取ったからこそ、返答を受けた後のあの穏やかな表情があるのだと思える。ロン・ベルクの申し出に媚びず、また疑うことなく受け入れたフローラの器の大きさは、つくづく感心してしまう。

 ところで、全くの余談になるが、カール王国は昔から最強騎士団などと呼ばれていた割には、やたらと人材に乏しい。

 15年前など、主だった大人の騎士達が戦いで全滅しただけに、当時は若干16、7才だったはずのマァムの父、ロカが騎士団長に選ばれるほどに人材が乏しかった。いや、彼のデータが不明なだけに、ロカが騎士団長には相応しくないなどと暴言を吐く気はないのだが。

 しかし、ロカは国に魔王がやってきたという事実を知っていながら、本来の責務である国を守るためではなく、魔王を倒す旅にでるアバンに付き合ってあっさり旅立ってしまった(笑)

 友達思いで勇気があるのは認めるが、責任者としてはいかがなものか。
 ……緊急抜擢した国の守り手の要がこの有様では、当時16才だったフローラの苦労も忍ばれるというものである。

 14才で地上壊滅を企む魔王と真正面から渡り合っているとはいえ、パプニカを常に守ろうとしてくれる多数の勇者一行に恵まれたレオナと、どっちが幸せだか分かったものではない。まあ、そんな人材不足に悩まされた過去があるせいか、フローラは相手の資質を見抜く目に優れ、現在ある戦力を有効に使う指導力に長けている。……ホント、人生何が幸いするか分からないものである。
 
 
 

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