27 閃光の命、永遠の命 ポップとバーン

 

 バーンが望んだのは、未来永劫に渡るまで変わることのない悠久の光――全ての存在に対して燦然たる光を与える太陽だった。
 太陽の光に魅せられたバーンは、その他の光に気を取られることはない。

 人間の中に希望を見いだし、人間に心惹かれた竜の子を愚かと考えるバーンからは、人間に対する否定が感じられる。
 実際、バーンは、人間を脆弱で価値のないものとして考えていた。

 だが、その感情は、バランやラーハルト、それにヒュンケルが抱いていたような強い否定の感情ではない。バーンは、人間に対してそれ程までに心を動かしはしない。
 彼にとって人間とは無価値なものであり、特に意識する存在ではないからだ。

 バーンが人間に抱いているのは軽蔑の感情であり、憎しみの念ですらない。
 そして、初期のハドラーやザボエラのように、人間を無闇に蔑み疎んじているわけでもない。バーンがダイに語った、異端の英雄の未来予想図には、レオナですら反論出来ない説得力があった。

 常に玉座にいながらも水晶球を通じて全世界、どこでも見ることのできるバーンは、人間という種族全体の傾向を的確に把握している。
 高い知性を持つバーンの観察眼は、確かなものだ。

 彼は人間という存在を、好悪の情を込めずに冷徹に観察し、分析できる。
 そして、バーンは結論づけたに違いない――人間とは愚かで自分勝手な醜い生き物であり、気に留める程の存在価値はない、と。

 感情からそう思うのではなく、理性ゆえにそう判断するバーンは、人間を滅亡させることに躊躇などない。
 というよりも、意識すらしていない。

 彼にとって大切なのは地上を壊滅させて魔界に太陽をもたらすことであり、人間を全滅させるのはそのついでに起こる必然の過程であるだけだ。バーンにとっては、ある意味で人間などどうでもいいのだろう。

 その証拠にバーンはひ弱さゆえに神々に優遇された種族を妬むのではなく、そんな人間達などを贔屓した神々の愚考にこそ怒りを向けている。

 人間に強い嫌悪を抱いていないからこそ、自分が認めた者なら人間だという出自に拘ることなく側に置くこともできる。

 人間離れした強さを持ち、人間でありながら人間に強い憎しみを抱いていたヒュンケルや、女性離れした強靭な意志を見せたレオナに興味を抱いたのなどは、その表れだろう。
 いずれ処分する塵芥に等しいではあるが、気に入ったものがあれば個別にならば拾い上げてもいいと思える玩具――バーンにとって、人間はそんな存在だった。

 人間を完全に見下し、また、それに相応しいだけの実力を備えた悠然たる大魔王バーンと初めて会った時、ポップは一度はそのスケールに圧倒され、決して勝てないと絶望した。
 あの瞬間に全てを理解したとは言わないが、ポップはバーンが自分達を敵視すらしてないという事実を知った。

 自分達を対等とすら思っていない上に、桁違いの実力差……この時は、バーンは完全に遊び半分であり、飽きたらパーティを全滅させる気だった。
 つまり、この時はバーンはダイ一行の中に気に入る玩具を認めてはいなかった。

 その証拠にこの時は、ダイでさえ自軍に勧誘しようとはしていない。
 バーンとの初戦は勇者一行の完全なる敗北であり、特にダイはその事実に完全に打ちのめされた。

 だが、ポップは、ダイよりも早くに立ち直っている。
 バーンの恐ろしさを肌で味わい、理解しつつも、ポップは魔界の神候補だけを特別視はしなかった。元々、ポップは敵味方問わず、自分の感情をそのまま相手にぶつける傾向が強い。そして、戦わなければならないと判断したのなら、勇気を振りしぼってでも戦おうとする。

 バーンを戦うべき相手と見定め、敗北にうちひしがれたままのダイに一人でも戦うと宣言したポップは、実際にそのつもりだったのだろう。

 ポップにとっては、敗北は初めてではない。
 クロコダインとの戦いから逃げた時、フレイザート戦でハドラーに負けた時、バランとの初戦で全然かなわなかった時――敗北感を味わった数は、何度となくある。

 だが、ポップはそのいずれからも立ち上がっている。
 どんなに打ちのめされても、また立ち上がれる。敵だろうと味方だろうと、相手を自分と対等と見なす。

 そのポップの心の持ち様は、バーンに大いなる驚異と衝撃を与えている。
 ポップの知性や戦闘力よりも、バーンが真に恐ろしさを感じたのはポップの見せた強靭な精神力の方だ。

 がむしゃらに敵にまとわりついてくるダイとポップを前にして、バーンがダイではなく、ポップの方に恐怖を感じているのが興味深い。
 戦力なら、分析出来る。だが、感情を分析で完全に理解するのは、難しい。

 そして、人は未知なるものにこそ驚異や恐れを感じるものだ。
 人間を完全に理解したつもりでいただけに、バーンがそれを覆す存在であるポップを本気で恐れた。

 さらに、人間達の魂の絆が起こした奇跡が、バーンを打ちのめす。
 神の視点から人間の群像を眺めていただけでは、決して気付くことはない人間の個々の輝き。

 時として太陽よりも眩い輝きを放つ閃光を、バーンは理解したはずだ。
 だが、太陽を心から欲し、長年焦がれ続けたがゆえに、バーンは閃光の美しさを認めはしても、手に入れたいとは思わなかった。

 どんなに輝いても、どんなに美しかったとしても、それは一瞬で消えてしまう閃光――永遠に近い命を持つバーンにとっては、それはあまりにも儚い。

 冷静さを取り戻したバーンは、ポップを特別視しながらも人類滅亡の予定を揺るぎなく宣言した。

 だが、一瞬の閃光とは言え、目を焼いた光はいつまでも心に残るもの――もし、バーンにその後があったとしたら、この時の光は彼に確実に影響をもたらしたはず。
 後々に彼の人生観をどのように変化させたか、見てみたかったものである。
 

 

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