28 主従関係以上、お仲間未満 エイミとレオナ

 

 エイミとレオナは、公的には部下と主君という関係だ。
 パプニカで最強と呼ばれる力を持つ三賢者は、王女の側に常に控え、護衛を司る役割を果たす。また、彼らのもつ使命は護衛にとどまらない。

 初登場の際、エイミはレオナの指示では無く独自の判断で、奇妙な信号弾の確認をするために兵士を連れて気球で偵察に来ている。
 つまり、三賢者は独力で兵士を動かす判断を下せる役職でもある、ということだ。

 どの程度までの権力を持つかは作品中では明記されていないが、三賢者が王の側近という立場であり、他の兵士に比べて特別扱いを受けている描写は随所に見受けられる。

 エイミはその内の一人で、三賢者の中で一番若いながらも最も行動力に富み、レオナと一緒に行動する時間も長い。
 エイミのレオナに対する忠誠は、単なる仕事という枠を超えた真摯なものだ。

 通常ならば若年の王族に仕える側近は、主君を奉りはするものの傀儡にして実権は自分達で握るという傾向が見られるものだが、三賢者に関してはそれが全く無い。年若い主君を侮ること無く、むしろ自分達以上の知能を持つ者として崇め、無条件でレオナに従うという忠義ぶりを発揮している。

 ことに、エイミはその傾向は強い。
 彼女のレオナへの心酔ぶりはたいしたもので「姫様は私なんか比べ物にならないぐらい、お美しい方よ」と手放しに褒めちぎっている。

 追従の域を超え、エイミはレオナを全てにおいて自分以上の存在を認め、尊敬の念を抱いているようだ。

 まあ、現実問題、美貌に関しては見る人の好みがあるから問題外としても、レオナはその頭脳、回復魔法の能力に置いて三賢者を引き離す実力の持ち主だ。

 三賢者がレオナより勝っているのは攻撃魔法の腕ぐらいのものだが、戦いを組み立てる能力はレオナの方が遥かに上なことを考えると――エイミがレオナには決して適わないと思い、無条件に従うのも頷ける。しかし賢者とはいってもまだうら若い女性なせいか、エイミは自分の感情を優先させがちな傾向があり、公の立場の認識が甘く、政治的、軍事的判断は皆無に等しい。その上、エイミは融通の効かない生真面目さがある。

 公私の区別はつけながらも三賢者に対して気さくに接するレオナに対して、エイミはいかなる時でも彼女に付き従う臣下としての姿勢は崩さない。

 三人の中で年齢も一番近いだけにもっと遠慮なく接してもいいように思えるが、エイミはけじめを破るなど考えもつかないようだ。常にレオナを自分達の主君と意識し、自ら一線を引いたように彼女に対しての敬意は守り続けている。

 しかしその敬意は、姫という立場に囚われない対等の仲間を求めたいと考えているレオナにとっては、手放しで歓迎出来るものとは言えないだろう。しかし、レオナは王女としての振る舞いを心得た聡明な少女だ、『友達』として出会ったマァムには姫扱いするなとは言っても、部下に向かって姫扱いするななどと無茶な命令は下さない。

 それは部下からすれば、矛盾する迷惑な命令なだけだと理解しているからだろう。
 仲間と言うには遠い関係――だが、困ったことに感情を優先させるエイミは、臣下としても優秀とは言いがたい。

 本来、王の補佐役とは、最優先に王の身の安全を図り、その政策に誤りがあるのなら身を挺しても正すのが役割のはず。

 だが、エイミはレオナに対する敬意は強いものの、常に主君に判断を委ねていたせいか、現在の状況に対して理性的に判断することなく、自分の感情を優先してしまう傾向が強い。特に、ヒュンケルに恋愛感情を抱いてからのエイミは、現状認識などうっちゃる程に彼に夢中になってしまっている。

 ヒュンケルの身を案じる余り、勝手に武器を隠したなどとはその際たるものだ。世界を救うために大魔王と戦うと決めたレオナに従うのなら、いかなる事情があろうと主力戦士の妨げになる行動を取るべきでは無い。

 エイミは感情的にはいつもレオナに賛成するが、それは本人や作戦のためになるとは限らない。 その傾向は、レオナが破邪の洞窟に潜る際にも見られる。

 自ら戦いを望むレオナに賛成して、引き止めようとするダイに反論していたが、あれもほぼ完全に感情論に等しい。レオナに賛成したから援護するという枠を超え、やけにムキになったあの反論は、ヒュンケルのために戦いに参加している自分を重ねての言動としか思えない。

 恋する乙女としてはともかく、姫の護衛のための臣下としては、完全にマイナス行動だ。唯一のパプニカ王家の生き残りである彼女の身を案じるのであれば、当然引き止める方向に動くべきだろう。

 仲間と言うには距離感があり、臣下と言うには感情を優先させすぎな未熟な側近――だが、レオナにとってエイミは心を許せる身近な存在だ。
 その何よりの証拠が、エイミのヒュンケルへの感情に、レオナが気付くシーンだ。

 エイミのヒュンケルへの惚れ込みようはバレバレで、三賢者やポップは割と早くそれに気付いている。だが、意外にも恋愛に興味津々で他人の感情に聡いレオナは、三賢者やポップよりもエイミの思いに気がつくのが遅れている。他人の動向に常に気を配るレオナにしては珍しい抜かりだが、その手抜かりこそがエイミへの信頼感の強さを表しているような気がしてならない。

 常に自分に助力して、一緒にいてくれる存在と安堵しきっているからこそ、レオナはあえて危険な地にまでやってきたエイミの心理を考えようともしなかった。

 それにエイミの恋心を知った後も、戦いの邪魔になりかねない彼女の気持ちを抑えさせることなく、むしろ応援するように見守っている。戦いより感情が大切と考えるレオナはエイミに対して、単なる臣下としてではなく、家族に対するような無条件の信頼と親しみを抱いている。

 主君と臣下という枠の中でありながら、二人はそれ以上の絆を結んだ関係と言えるだろう。
 
 

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