30 同じ土俵に立つ、罠使い達 アバンとキルバーン

 

 大勇者アバンに対する敵の評価は、総じて高い。
 大魔王バーンやハドラーもアバンを重視している中、キルバーンは最初はさほど彼を重視しているとは言えなかった。

 キルバーンの役割は、偵察と暗殺。
 バーンの邪魔になる者を刈り取るのはキルバーンの役割であり、在る程度独断で動くのも許されているのに、キルバーンはデルムリン島でのアバン抹殺には一切関わっていないどころか、見学すらしていない。

 …このやる気のなさでは、とても当初はアバンの価値を重視していたとは思えない。
 だが、バーンパレスで会った時から、キルバーンはアバンをいきなり最重視している。


 アバンに対するキルバーンの警戒心やこだわりは、最初からアバンの存在を終始していたバーンや、アバンに特別なこだわりを持つハドラー以上のものだ。何がなんでも自分の手で始末しようとまで考え、わざわざ異次元にまでアバンを連れ込み、決闘を挑んでいる。
 それまでは残酷ではあっても執着心は薄く、獲物を逃がしたり、暗殺に失敗してもケロリとしていたキルバーンとは思えない豹変ぶりだが、それには理由がある。

 キルバーンがアバンにこだわり、彼を抹殺しようと考えたのは、プライドを傷つけられたからだけではない。アバンを自分の同類と見なしたからこそ、その存在を許せなかったのだろう。

 アバンは、キルバーンの罠を解除しただけではない。よりによってキルバーンを『罠』にかけたのだ。 己の技量に絶対の自信を持っている者にとって、同じ分野で自分の上を行く者ほど目障りな者はない。しかも、アバンの挑発はキルバーン以上に巧みだ。

 他人の感情を揺さぶり、それさえも利用するキルバーンのお株を奪うかのように、キルバーンを挑発して意識を自分へと向けさせた。
 そして、アバンはそれに見事に成功させている。

 彼の挑発に乗ったキルバーンは、ポップへのこだわりよりアバンへの怒りを重視して、独断行動に走ってしまっている。
 それがアバンの思惑通りと分かったとしても、キルバーンとしては彼を見逃せなかった。


 同じ狩り場に、狩人は同時に存在出来ない。
 相手を同類と認めたからこそ、キルバーンはアバンを叩き潰したいと望まずにはいられなかった。ゆえに、らしくもない決闘という手段すら選んでしまっている。

 その成り行きは、アバンにとって思う壺だろう。
 復活したアバンは、自分が戦力としては弟子達に劣っていることを知っていた。真っ向勝負では、アバンは弟子達に及ばない。

 だが、だからこそアバンは絡め手をしかけてくる敵を引き受けた。
 キルバーンのような罠使いは、ダイ達にとっては最も相性の悪い敵だ。

 普通に戦う手段しか思い付かないダイ、マァム、ヒュンケルでは対抗すらできないし、レオナは完全に技量と実戦不足、唯一キルバーンの思考や罠の技術についていけるポップも、性格的な甘さが強すぎて対抗手段とはなり得ない。

 罠には、罠を。
 卑劣な敵に対して、正攻法だけで立ち向かうのは得策とは言えない。時にはあえて汚れ役となるのを承知で相手の土俵まで降りて、逆に罠を仕掛けるだけの覚悟も必要ということだろう。

 思想的には平行線でありながらも、アバンはキルバーンを倒すためにそれをあえて交差させ、同じ土俵に立った。強い繋がりとは言えないが、戦いの最中にはそんな奇妙な絆も発生するという意味で、興味深い関係だ。
 
 
 

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