33 一人の勇者、百人の勇者 ダイとノヴァ

  

 ダイとノヴァは、出会いはそれ程いいとは言えない。
 共に勇者として周囲から活躍を期待されてきた少年と言う共通点はあるのだが、ダイはともかくとしてノヴァはひどくダイに悪印象を抱いていた。

 プライドが高く、自分こそは真の勇者と名乗って憚らないノヴァは、噂に聞いた段階からダイに反感を抱いている。その反発心が強かったせいか、初対面からダイを挑発し喧嘩を売るような真似をしているのだから、彼の第一印象はかなり悪い。実際、勇者一行のほとんどはノヴァの態度に反感を抱いている。

 が、それにもかかわらず、ダイはノヴァには悪い印象を持っていない。
 おおらかなダイは、自分に対して悪口をいうという理由だけで、他人に反感を抱くという発想がそもそもない。それに、ダイは自分だけが勇者であり、特別な存在だという思考は持ち合わせていない。

 ロモスでクロコダインを倒した直後、王様に勇者と認められたにも関わらず、ダイは自分だけを勇者だとは思わなかった。力を貸してくれたポップやみんなも勇者だと言ったダイは、基本的にはその考えをずっと持ち続けている。

 ノヴァと会った時も、勇者は百人いたっていいと発言しているぐらいだ。
 勇者を名乗って悪事を働いたにせ勇者にさえ、完全に悪意を持たなかったダイにとっては、勇者と名乗る者に出会ったからと言って、特に抱く感慨はない。

 だが、それとは対照的なのが、ノヴァだ。
 ノヴァは、実力以上に背伸びして頑張り続けてきた印象のある少年だ。自分が特別な存在でなければいけないと、必要以上に自分を駆り立てるエリート意識が少なからずある。


 実際、その自信に裏打ちされるように、ノヴァはかなりの実力の持ち主だ。自分以上の存在に出会ったことがなかっただけに、敵と、それ以上に味方であるダイ達の実力に完全に負けた事実に、ノヴァは一度打ちのめされている。

 この敗北は、ノヴァの自信を根底から崩してしまった。
 これ以降、良くも悪くもノヴァは自分を勇者だと認められなくなってしまっている。桁外れの実力差に納得したのに加え、ダイの自然体な姿勢こそが勇者に相応しいと完全に兜を脱いでしまったのだ。

 ノヴァはダイを認める前と後とでは別人のように態度を変えているが、その変節こそが彼の勇者観を物語っている。
 人々を守り、助ける存在である勇者――超越者といっても言い。

 ノヴァにとって勇者とは、世界でただ一人存在を許されるヒーローなのだろう。
 ノヴァには、勇者はどこまでも一人っきりの存在であり、飛び抜けたものであるという認識があるように思える。勇者を特別なものだと考えているからこそ、たとえ自分が勇者でなくなったとしても、勇者を特別扱いするのをやめられない。

 ダイを勇者と認めたのなら、勇者ではない自分は補佐や練習相手に回るのを当然のように受け止めているノヴァは、ある意味では最初と全然変わっていない。自分を勇者とするか、ダイを勇者にするかという差があるだけで、勇者が特別の位置にいるのは同じなのだから。

 だが、ダイにとっては勇者はそれ程特別な存在では無い。
 発展途上の未来の勇者候補の存在から冒険を始めたダイは、物語終盤になるまでずっと勇者になりたいと思い続けていた少年のままだった。

 本物の勇者になりたいと思い、それに近付こうと努力し続け、自分に力を貸してくれる仲間に恵まれたダイが、勇者が人々の期待を一心に背負う特別な存在だと知るのは、バーン敗北後の話だ。

 だが、それを知ってなお、ダイは勇者を抜きんでて特別な存在と認識してはいない。
 ダイとノヴァの勇者に対する考えの差は、本人らの性格のせいもあるが、なにより勇者をサポートする仲間がいたかどうかの違いが大きいだろう。一人の力ではなく、みんなと力を合わせて戦った経験こそが、ダイを勇者足らしめているのだから。

 だが、仲間に恵まれず一人突出した力を持っていたがため、周囲と協力して戦う機会がとうとうなかったノヴァに、それに気がつけというのは無理な相談だろう。

 ダイとノヴァは最初はライバルっぽく出会った割には、ノヴァが全面的にダイを認める形で仲間となっている。ある意味、ダイとヒュンケルと関係に似ていて、ノヴァの遠慮というか大幅な譲歩を土台に仲間となった関係だ。

 しかし、ヒュンケルと違いダイの方にわだかまりがない分、素直に屈託なく接することができるため、ダイとノヴァは無理なく打ち解けて仲間となっている。
 個人的には、ダイとノヴァが勇者を競い合ってより高みを目指す方向性を望んでいただけに、二人の対立が発展しないまま話が終わったのが、少しばかり残念だったものである。
 
 

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