36 心広き理解者と乙女な崇拝者 レオナとメルル

  

 レオナとメルルは意外と一緒に行動する機会が多く、交わされる会話も多い方だ。
 年齢も一才違いであり共にいるシーンも多いこの二人は、周囲からみればレオナとマァム以上に仲がよく見える関係かもしれない。

 だが、同じ条件でマァムとメルルが親友とは呼べなかったように、レオナとメルルも親友とは言いがたい関係だ。物事をはっきりという主義であり気さくなレオナのおかげで一見そうは見えていないが、メルルのレオナに対する態度には明らかな遠慮や敬意が見受けられる。

 メルルが一国の王女に対して無遠慮に振る舞えない礼儀正しさを持っているせいもあるが、彼女の遠慮の最大の要因はレオナの器の大きさに対してだろう。
 聡明なレオナは、自分達の行っている戦いの勝ち目のなさを、かなりのレベルで予測出来ている。

 だが、それでも彼女は戦うという選択を選ぶ強さを持っており、そのために具体的に行動出来る行動力も持ち合わせている。
 その姿勢が、メルルにとっては尊敬してやまない部分だろう。

 占い師のメルルもまた、戦いの勝ち目の薄さを実感しているが、それは感覚的な予知だ。メルルには自分の不吉な予感を話すことは出来ても、それで他人を説得するだけの立証は出来ず、ましてやその対策のために行動するなどとは思いもつかない。

 メルルよりも魔法が使えるという利点があるにせよ、魔王軍との戦いにおいて戦力として役に立たない点はレオナもメルルも同じなのに、彼女には前線に立つ覚悟もある。
 自分と同じ不安を抱きながらもそれに押し潰されずに戦えるレオナに、メルルが尊敬の念を抱くのも無理はないだろう。

 その上、聡いレオナはメルルの心理も正確に見抜いている。
 メルルがポップを好きだという気持ちを理解し、それを否定せずに見守り、消極的にとはいえ応援してくれる存在でもあるのだ。一国の王女に対する以上の尊敬を寄せるのも、当たり前だろう。

 メルルのレオナに対する思いは、ほとんど崇拝に近い程の敬意に満ちている。
 だが、その敬意こそが、レオナとメルルが友達になるのを阻んでいる一番の要因だ。メルルはレオナを尊敬する余り、自分より一番上の存在として彼女を見上げてしまっている。
 だが、友達とは対等の関係から始まるものだ。


 メルルがレオナを必要以上に敬意を抱く限り、二人は対等の友達とは言えないだろう。
 レオナもそれに気がついてはいるだろうが、彼女はメルルに無理強いはしようとしていない。高い洞察力を持つレオナは、身分を気にしないダイやポップやマァムには遠慮無しの言葉をぶつけているが、それが出来ないと思える人間には無理な要求をしようとはしない聡明さがある。

 それに、相手が自覚してもいない問題点は遠慮無しに指摘するレオナだが、メルルは自分の問題点を嫌という程直視している。それをさらに指摘するのは、相手を萎縮させるだけと分かっているからこそ、レオナはメルルにどうしろとけしかけるような真似はしない。
 対等な友達とは言い難くとも、レオナとメルルは同じ不安を分け合うことの出来る、数少ない存在同士だ。

 性格的にはさっぱりしたレオナはカラッとしたマァムの方と合うだろうが、恋愛に対する関心の高さや、他人には打ち明けることのできない戦いへの不安などは、レオナとメルルは似通うものを持っている。

 理解しあえる不安を、分かち合うことのできる相手――親友とは呼べなくても、レオナとメルルはそんな関係として物語を終えた。

 共に過ごす時間が少しずつ敬意を剥ぎ落として親しみを増やしていき、戦いへの不安が解消されて恋愛の悩みだけを相談しあえる関係……そんな風に仲良くなっていく二人を見たかったものである。
 
 

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