38 もう一組の勇者と魔法使い アバンとマトリフ

 

 15年前、魔王ハドラーを打ち倒して世界を救った大勇者、アバン。
 彼に力を貸した仲間の一人が、大魔道士マトリフだ。

 しかし、アバン一行の旅のエピソードはただでさえ多くはない上にはっきりとはされていないので、マトリフがアバンと出会ったタイミングや、仲間入りした時期などは不明である。

 はっきりと言えるのは、ハドラーとアバンが戦った際は、すでにマトリフは彼の仲間として一緒に戦ったということだけだ。
 だが、推測でしかないとはいえ、アバンとマトリフの出会いをうっすらとだが感じさせるエピソードがある。

 人助けをする気のなかったマトリフに、必死で食い下がって助力を頼むダイの姿に、彼は若い頃のアバンの面影をだぶらせている。
 思えば、アバンと出会ったと思われる17年間でさえ、マトリフは81歳であり、本来なら隠居していておかしくないご高齢。

 しかも年齢を思えば、すでに彼の性格や行動パターンは完成されていると考えた方がいい。

 他者と関わりたがらず、慎重、なおかつ冷静な判断力を持つマトリフは、17年前であっても世界を救う為に何かをする気があったとは思えない。そんな彼を動かしたのは、アバンの正義感と熱意と見て間違いないだろう。

 そして、皮肉屋であり素直でない性格とはいえマトリフは一度引き受けたことには、最後まで助力するだけの責任感を持っている男だ。事実、アバンはマトリフに強い信頼を寄せていた。

 一緒に国を旅だったロカや、長く行動を共にしたレイラを戦いの場から遠ざけようとした時でさえ、アバンはマトリフやブロキーナの助力を借りてハドラーとの最初の決戦に挑んだ。

 しかし、アバンはハドラーに勝つつもりなどなかった。この時、アバンの選んだ戦法は「凍れる時間の秘法」を使って魔王を封じる方法だった。身を挺してハドラーを封印したアバンは、自分自身が永久に魔法の中に封じられるのも覚悟の上だった。

 この時の段階で、アバンの目的は果たされている。
 世界を救いたいというアバンの熱意に付き合って魔王退治に力を貸していただけなら、マトリフはここでその役割を終えてよかった。

 だが、ブロキーナが後に語ったように、マトリフはこの後で、最終決戦用の切り札として極大消滅呪文を編み出した。物語の中では、アバンとハドラーがどのような形で「凍れる時間の秘法」から開放され、再び決戦に至ったかは語られてはいない。

 だが、マトリフの呪文習得の目的が、アバンを助けだし、ハドラーを倒す為の手段の模索であったことは明らかだ。
 最初は、アバンに頼まれたからこその助力だったかもしれない。だが、マトリフはアバンを仲間として認め、失いたくない友人として認識している。

 マトリフは、アバンを犠牲にして得られた平和に満足するつもりなどなかったのだろう。
 年齢の為か、あるいは持ち前の性格の為か、マトリフが自分の心情を口にするシーンは少ないが、彼の真意は行動に現れている。

 ダイの口からアバンの死を聞いた時はさして反応を見せなかったマトリフだが、ハドラーと出会った時はアバンの敵を討つために戦いを挑んでさえいるのだから。アバンとマトリフの確かな友情を感じさせるエピソードの一つだ。

 そして、アバンの方もマトリフに寄せる信頼は、並ならぬものがある。
 復活後、ポップの戦略の巡らせ方を見て、アバンはすぐにマトリフを連想している。なんの説明すら受けていないのに、ポップがマトリフの師事を受けて成長したとすぐに察することができるほど、アバンはマトリフのやり方を熟知していたのだろう。

 さりげないシーンだが、アバンとマトリフの強い絆を感じ取れることができて、お気に入りのエピソードだ。
 
 

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