39 お人好しの好好爺と素直な孫娘 ブロキーナとマァム |
『武術の神様』と噂に名高い、拳聖ブロキーナ。 が、ちょっとお茶目な性格な彼は、どちらかといえばお節介な方だし、人当たりは至ってよい。遠慮無しに毒舌を吐きまくるマトリフと違い、一発で仮病と分かる病気を盾にして他人の干渉を交わすユーモラスな一面を持つブロキーナは、マァムの第二の師だ。 先代勇者一行の一員である彼は、マァムが誕生する前から彼女の存在を気にかけ、仲間達の子として親しみも感じていたはずだが、彼の行動はかなり控え目だ。
マァムはパーティから一時離脱する際、ロモスの山奥に『武術の神様』がいるという噂を元にして、行動している。つまり、マァムからすれば第二の師匠は知己や縁故に頼った弟子入りではなく、初対面の老人に対する弟子入りにあたるのだ。 ……しかしまあ、何も知らない第三者から見れば、怪物を弟子にしている上、弟子に実演の稽古をつけてやらずに仮病ばかりを使うブロキーナは、かなりのレベルでうさん臭いじいさんなのだが、マァムは実に素直に彼を師と仰ぎ、最上といってもいい尊敬の態度を保って接している。 マァムがブロキーナを尊敬するのは、その実力ゆえ……ではなさそうである。 残念ながら原作でマァムが弟子入りする時のエピソードがない以上考察は不可能だが、この師弟はわずかの間に強い信頼関係を築き上げている。 もっとも信頼関係を築いたとはいえ、ブロキーナとマァムの関係は理想的な師弟関係とは言えない。 たとえばマトリフやアバンは、最終的には弟子達を自分以上の力を持つ後継者として扱い、自らはサポートに回っている。 このちょっと過保護なジジ馬鹿ぶりの根底には、ブロキーナだけが知るマァムへの思い入れがある。 ブロキーナが最初から、マァムがかつての仲間達の娘であり、アバンの弟子だと知っていた。 ブロキーナの教え方はどちらかと言えば放任に近いらしく、座ったり寝っ転がったりする姿勢でマァムに教えを授ける回想シーンが主だ。 アバンのように実践形式の稽古を交えながらの授業や、マトリフのように完全に実戦訓練と違い、この方式の授業は生徒側に高い学習能力とやる気がなければ、ほとんど無意味な教えにすぎない。 実際に、マァムよりも先に弟子入りしたはずのチウに対しては、ブロキーナの放任主義が見事に裏目に出てしまっている。口先や態度のみが大きくなったが、悲しいまでに実力はついていっていない。 だが、マァムの場合は、ブロキーナの元で14日間修行を受けただけにも関わらず、武神流の奥義まで授けられるまでに成長している。 それがマァムの長所とはいえ……しかしもう少しぐらいは、物事を深く考えた方がいいような気がするのは、気のせいだろうか? 例えば奥義継承の時、アバンの弟子であり、奥義の恐ろしさを身に染みて理解できるマァムを信頼しているから、奥義を教えられるとブロキーナはこの時、語っている。 ――つまり、この段階でブロキーナが直接的か、あるいは間接的にアバンを知っており、彼に信頼を置いていると言っているも同然なのだが、マァムは後にブロキーナがアバンの仲間だと告白する時まで気がついてさえいなかった。 ……策略に長けた敵との戦いに参戦する以上、もう少しは、物事を深読みする思考も必要かと思えるのだが。 武闘家に転職し全般的に以前よりもパワーアップを果たしたとはいえ、精神的な甘さを多分に残したマァムは魔王級戦では役に立たないと危惧していたのは、おそらくは本人よりもブロキーナの方だろう。 奥義まで授けた愛弟子とはいえ、ブロキーナのマァムを見る眼差しは、自分の後継者である弟子というよりは、無条件に愛してやまない孫娘に等しい。 弟子ならば、全てを託して自分は見守るのもありだろうが、死地に向かう孫娘を見過ごせる祖父も、いないだろう。 どこまでも孫に甘い祖父のごとくマァムの保護者であり続けたブロキーナと、溺愛されていることにまるで気がついていないマァム。 |