40 義侠心と人情 クロコダインとバダック

 

 元魔王軍軍団長クロコダインと、魔王軍に一度は滅ぼされた国の兵士であるバダックの出会いは、フレイザード戦の時のこと。
 ダイの助っ人として颯爽と現れたクロコダインを見て、バダックは驚きを隠せないでいる。

 ダイもバダックも手も足も出なかったピンチの時に飛び込んで来て、敵を一掃してくれたとは言え、巨大な怪物を目の当たりにして驚くのは、一般人としては当たり前の発想だろう。

 だが、バダックの良さが発揮されるのはこれからだ。
 ダイとクロコダインが知り合いだと分かり、バダックはあっさりと彼に対しての警戒心を解いている。

 初対面の子供であるダイを勇者と信じ、簡単に受け入れたのと同じように、バダックの平等精神は怪物にも向けられているのだ。
 ダイはクロコダインにこの場を任せて先に進むことになるが、その際、バダックはゴメちゃんと共に残っている。

 確かに実力的には、ダイと一緒にいても足手まといになるだけだろうから残って正解だと言えなくもないが、クロコダインへの不信感を少しでも持っているのならば選べない選択だ。

 それどころかバダックは、クロコダインに対して最初から大いに親しみを持って接してる。そのきっかけとなったのは、やはりクロコダインの義侠心だろう。

 初対面のバダックを、クロコダインの方は戦いの中で庇っている。
 状況が状況なだけに互いに紹介し合うだけの余裕もなかったものの、バダックがダイやゴメちゃんと一緒にいたことから、彼らの知り合いとクロコダインは判断し、庇ったのだろう。

 じいさん、伏せていろと声をかけて自分一人で戦うクロコダインは、この時のバダックを戦士として評価したとは言いがたく、庇うべき非戦闘員として見なしていたようだ。

  男気に溢れ、弱い者を庇うのにためらいもこだわりも持たないクロコダインにとっては、それだけの出来事だっただろう。だが、それだけで終わらなかったのは、バダックの見かけによらぬ度量があってこそだ。

 敵を一掃したクロコダインの必殺技『獣王痛恨撃』を見て驚きながらも、名前が物騒だから『獣王会心撃』とでも改名したらどうじゃ、と気安く話しかけている。

 バダックは自称パプニカ一の剣豪かつ発明家だが、むしろコピーライターの才能の方があるのではないかと思える、秀逸なネーミングだ。

 DQワールドでは、敵味方を問わずに普段よりも強烈な攻撃を繰り出すことがあるが、敵の攻撃は『痛恨の一撃』、味方は『会心の一撃』と明確に区別している。

 つまり、『痛恨の一撃』を使ってくるのは敵の証みたいなものだが、バダックはこの時点でクロコダインを味方だと本心から思っていることが分かる。
 短い台詞であるけれど、この言葉にはクロコダインを怪物ではなく自分達の味方だと認めたと分かる台詞だ。

 このバダックの言葉に気をよくして、クロコダインは機嫌よさげに朗笑している。その後、実際に技の名前を『獣王会心撃』へと改名していることからも、クロコダインがいかにバダックのことの時の台詞が気に入ったのか、推し量れるというものだ。

  フレイザード戦では、実力的に一歩も二歩も劣るのに参戦したバダックはこの後もピンチに陥ったりするのだが、クロコダインはその時も彼を庇っている。

 正直言ってしまえば、戦いの中ではバダックは足手まといに過ぎないのだが、彼の良さは戦い以外で発揮されている。

 調子がいいようでいて意外と律儀なバダックは、クロコダインに助けられた恩を忘れず、何度となくそれを返している。

  まず、バダックの最初の恩返しは、レオナ救出後の勝利の宴で、宴席から一人離れていたクロコダインに祝いの酒を運んだことだ。
  自分が怪物であることを自覚しているクロコダインは、自分が恐れられる対象であるのもよく承知している。

 場の雰囲気を崩さないために、一人で酒を呑んでいたクロコダインの所へ屈託なく押しかけ、怪物も人間も関係がないと気さくに打ち解けている。
  ここで重要なのは、バダックの自然体の素晴らしさである。

 バダックは元々、偏見がひどく薄い。自分よりも遥かに年下の少年であるダイを勇者として扱い、それでいながら友達感覚で気さくに話すことができるという高い柔軟性の持ち主だ。

 自分達を助けてくれた怪物もまた、恩人として遇し、しかも友達であるかのように親しくなれる。
  このバダックの気さくさは、クロコダインにとっては大きな救いになっている。

 ダイやポップとの出会いから人間の良さに開眼したクロコダインにとって、バダックの存在は人間とは信じるに値する存在だと後押ししてくれたと言っていい。

 怪物であるクロコダインを、仲間として受け入れ遠慮なく話しかけてくる人間は、まだまだいるのだと実感させてくれる存在――バダックのその気さくさは、クロコダインだけでなく魔族や怪物の仲間達と、彼らを警戒する人達との間を取り持ってくれている。

 チウやロン・ベルクなどにも偏見のないバダックだが、彼がクロコダインを特に気にいっているのは間違いがないだろう。
  バダックはその後、ロン・ベルクにダイだけでなく勇者一行に武器を与えてくれるように頼みにいっているが、その時、クロコダインの武器も作ってもらっている。

 その時はクロコダインは処刑前提で囚われの身であり、なおかつ実力的に言うならばダイ達よりは今一歩劣っている。

 だが、それにも関わらずバダックはクロコダインの武器まできちんと作ってもらうように頼み込み、あの頑固職人ロン・ベルクを納得させてはたしてもらっているのだからたいしたものだ。

 クロコダインはきっと生きていて、なおかつ必ず自分達の味方として戦ってくれるという、バダックの強い信頼が感じられる一コマだ。

 クロコダインとバダックは戦いの最中にでも軽口を叩きあえるような気の置けない仲だが、一番印象に残る会話シーンと言うと、ザボエラを退治した直後の二人の会話シーンだろう。

 己の欲に目を眩んだザボエラの哀れな末路を見届けたクロコダインは、その姿にかつての自分の姿を重ねていた。
  ザボエラと同じく出世欲に焦り、卑劣な手段で勝利を目指そうとした時、ダイ達と戦ったことでクロコダインは救われた。

 だが、もしそうではなかったら――己の過去を想い、かつては曲がりなりにも仲間だったザボエラへの同情を見せるクロコダインに、バダックはいつになく真面目に語る。
  もし敵のままであったとしても、クロコダインは尊敬に値する敵だっただろう、と。

 クロコダインを誇るべき友人と呼び、その過去や武骨な生き方そのものまで肯定したこの台詞は、紛れもなくバダックの一番の名台詞だろう。
  ダイの大冒険のその後を語る上でかかせないテーマの一つ、人間と怪物との共存を信じさせてくれる深みのある言葉でもあり、お気に入りの台詞の一つだ。
 
 

 
  
  

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