41 一番星になれなかった者達 ロン・ベルクとノヴァ

 

 ロン・ベルクはかつて、魔界で一番の戦士となりたいという野望を持っていた。
 大魔王バーンにさえ肉薄すると言われた剣の技量を持ち、なおかつ、理想に近い武器を作り上げるだけの刀工の才能に恵まれもした。

 おそらく、ロン・ベルクが弛まず、揺るぎのない熱意を持って努力し続けていたのであれば、その野望は野望のままで終わりはしなかっただろう。
 ――が、才能に溢れたはずの彼はいつしか本来の目的も見失ったかのように、人間界の片隅で世捨て人として生きる道を選んだ。

 戦士として生きるどころかその前段階である武器作りにも情熱を失い、すっかりやる気を失うようになるまで、どのくらいの時間が掛かったのか、それは明らかにされていない。だが、いみじくも本人も語ったように、寿命が長い魔族は無感動にだらだらと生きるだけになりがちであり、ロン・ベルクもその一人になりかかっていた。

 心の奥にはまだ野望が燻ってはいるが、それを燃やすことも捨てることもできないまま無気力に生きる日々……それに、めりはりをつけてくれたのが、ダイ達だった。大魔王バーンに本気で戦いを挑む無謀な勇者らに、ロン・ベルクが手を貸したのは気紛れの要素が多いのは否めない。

 忘れかけていた情熱に火を点してくれる存在ではあるものの、ロン・ベルクにしてみればダイ達に大きく肩入れする理由などないのだから。実際、ダイ達全員の武器を作り上げ、さらについでに助っ人を申し入れた辺りまでは、ロン・ベルクは明らかに本気ではなかった。

 心情的には一応ダイ達に荷担しているとはいえ、それでもロン・ベルクのその決意はあくまで余興というか気紛れの範疇であり、自分の全てをぶつけてでも叶えたい願いではなかったのだ。

 一方、ノヴァの方は、最初はロン・ベルクのそんな複雑な心境にまでは、思いが至っていなかった。魔族というだけでも信用しきれないのに、真剣ではないその態度が自分達を小馬鹿にしているかのような印象として受け止めたのだろう。

 ノヴァにとって、ロン・ベルクは手放しに歓迎したい味方ではなかったはずだ。
 そして、ロン・ベルクにとっても、ノヴァは最初は十把一絡げの雑魚としか認識できていなかっただろう。

 一国の主であるレオナやフローラにさえ不遜を貫いた男が、北の勇者に敬意を払う道理などない。実際、卓越した剣技を誇るロン・ベルクにとっては、自分に肉薄する実力をもつダイ達以外は、多少の強さのばらつきがあったところで、所詮は雑魚だろう。

 そう考えても仕方がない程、ロン・ベルクとその他の人間達の力の差は歴然としていたのだから。
 そんなロン・ベルクがバーンへの戦いに対する意識を変えたのは、超魔ゾンビと化したザボエラにノヴァが命懸けで戦おうとしたのを見た時だ。

 自分では決して相手に叶わないのを知りながら、自分をきっかけに後に続く者がでることを期待し、戦いに挑む姿勢――自分だけで達成できないのであれば、後続に後を任せる。

 長寿の魔族のように、長い時間を掛けて『いつか』くるかもしれないチャンスを待つのでは無く、今、命を懸けてでも一瞬のチャンスを掴み取ろうとする生き方。
 単身で生きることしか考えていなかったロン・ベルクには思いも寄らぬ発想だったに違いない。

 そして、ノヴァのその自己犠牲も恐れない必死さは、ロン・ベルクの心を大きく動かした。
 ロン・ベルクはノヴァの一途さ、必死さの中に、自分では得られない物を見たのだ。

 その後、ロン・ベルクは本気で人間の味方となり、協力している。自分の腕を犠牲にするのを承知の上でザボエラを倒したのに始まり、黒の核晶の停止のために協力し、バーンの勧誘をはっきりと断っている。

 自分を認めてくれ、本気で人間の味方になってくれたロン・ベルクの姿は、実はノヴァにも大きく影響を与えている。

 ノヴァは、ロン・ベルクが腕を壊してまで自分達を助けてくれた段階で、彼を大幅に見直し、尊敬の念を持って彼の『腕』の代わりとなろうと決意している。彼の本来の夢が勇者だったことを思えばずいぶんな方向転換だが、ノヴァはこの方向転換を悔いはしないだろう。

 二人が意識しているとは思えないが、ロン・ベルクもノヴァも自身の夢を持っていたのに力及ばず、それに届かなかったという点では良く似ている。

 ダイやポップ達が、誰かのために強くなりたいとがむしゃらに頑張るのとは違い、自分が一番になりたいと思う気持ちを根底に持って伸び悩んだ過去を持つ二人は、それだけに互いを理解し合えると思える。

 本来の夢とは違う形でも、満足できる生き方はできるのだという結論に達した点でも、二人は似ているのだから。
 物語の最後で、ロン・ベルクの元にノヴァが弟子入りしたと予測できるエピソードが挿入されているが、さぞや息の合ったいい師弟関係を築いただろう。


  
   

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