44 闘神の息子達 ダイとラーハルト |
ダイとラーハルトの出会いは、遅い。 突然やってきて、ディーノ様の部下になりたいと望むラーハルトに対して、ダイは随分と戸惑っていた。 だが、バランとの戦いの際はダイとラーハルトは互いに出会う機会がなかったため、バーンパレスでの出会いが最初の出会いになる。 しかし、ダイにしてみればその時が初対面だったが、ラーハルトの方はそれなりのに予備知識があったとみていい。主君であるバランから妻や息子の話を打ち明けられていたし、いかに彼が息子を取り戻したいと切望しているか、知っていた。 そのせいかラーハルトは最初からダイを主君の息子として認識し、バランとほぼ同等の尊敬の意思を示している。なにしろあれほど不遜な男が、まだ見もしなかったダイを『ディーノ様』と呼び、彼をバランの元に取り戻すためだけに最大限の協力を捧げたのだ。 だが、その時は、ラーハルトにとってダイは主君の最愛の息子であり、それゆえに尊敬を寄せる相手にすぎなかっただろう。 いかに元主君にして命の恩人の頼みとはいえ、その段階ではダイのことは何も知らなかった癖に、全く無茶な話だ。ある意味、バランの義理の息子的存在だったせいか、筋金入りの頑固さである。 バランの遺言は命令どころか強制ではなく、あくまでラーハルトの意思を尊重して書かれたものだったので、嫌ならば拒否するのも自由だった。 無論、彼のその行動や理念はダイに賛同したからではなく、バランに対する思い入れがあるからの決断だろう。ラーハルトは初対面のダイを見てバランによく似ていると発言したが、客観的に見るならダイの面立ちは母親寄りに近い。 それなのに父親の面影を見いだすのは、ラーハルトが直接ダイの母親に面識がないせいもあるが、なによりも彼の心がバランに向けられていたからだろう。 ラーハルトが自分の父親を慕っていてくれた事実を知ったダイはそれを素直に喜び、それゆえに彼を受け入れてくれた際、ラーハルトは珍しくも照れた様に喜ぶ表情を見せている。 もし、最初の主君に義理立てするためだけにラーハルトがダイに仕えることを選んだのなら、ダイの理解に喜ぶ理由はない。 そのいい証拠といえるのが、ダイが自分をディーノと呼ばないでくれと頼んだ時、ラーハルトがそれを承知したシーンだ。 が、逆にダイは、バランのその思いが分かるからこそ、父がこだわったその名で呼ばれるのに辛さを感じて、止めてほしいと頼んでいる。 ダイはラーハルトに、ポップやマァムとの共闘を命じている。それに対し、ラーハルト自身が戦いに参加する際に望んだことだし、むしろ命じられたのが嬉しいとばかりに応じている。 ダイのこの時の『命令』は、ラーハルトを部下と認めたから命じたのではなく、ラーハルトがそう望んだから合わせてあげた、というニュアンスに近い。 基本的にダイは他人に命令する性格ではないし、直後に「もう一つだけ頼みがあるんだ」と言っている点からも、ダイからしてみれば最初の命令も、言い方が違うだけで頼み事に過ぎないのだろう。 だが、自分の呼び名に関しては、ダイはそれがわがままだと承知しているせいか、ラーハルトに合わせて命令するのではなく、自分の望みのままのお願いになっている。 ダイは自分の名をダイと認識している上、いまだに父親との別れや諍いを全て受け入れきれたわけではない。 ダイのその思いを察したラーハルトは、今度は自分の方が譲って見せている。ダイの頼みは「ディーノと呼ばないでほしい」だったのにも関わらず勇者ダイと呼びかけたあたりに、ラーハルトの気遣いが見て取れる。 会ったばかりとはいえ、バランという共通の父親を持つダイとラーハルトは互いを受け入れ、歩み寄ろうと考えていた。 物語がその後終わってしまったためダイとラーハルトの関係が、ダイの望む通りに仲間として対等に近くなるか、ラーハルトの望み通り主従関係に近くなるか、見届けられなかったのが残念だ。 ……まあ、ラーハルトの筋金入りの頑固さから考えると、後者の可能性の方が高いと思えるが(笑) |