49 押さえきれない人情家コンビ ポップとヒム

  

 ハドラー親衛隊の中で真っ先に登場してきたヒムは、氷山地帯でポップと出会っている。
 ちょうどダイが力を使い果たして衰弱していた直後で戦闘不能、ポップにしてみても辛うじて魔法力がある程度の状態だったし、おまけに背後には足手まといにしかならないチウがいるという、非常に不利な状況だった。

 ザボエラの魔法で殺されそうになっていたポップ達を庇う形で登場したヒムは、この時点では、ポップどころかダイにさえ注目してはいない。
 だいたいのところ、ヒムにしてみれば魔法使いは興味の対象外だろう。

 超金属で出来たヒムの身体はほぼ全ての魔法を跳ね返してしまうし、正々堂々とした戦いを望む彼にしてみれば、非力な魔法使いを戦いの相手として選ぶ姑息さはない。
 初対面の印象は、そう高くはなかったはずだ。

 だが、親衛隊全員と勇者一行の戦いの際、ポップの放ったメドローアを見て、ヒムを初めとする親衛隊のメンバーはポップの評価を大幅に引き上げている。
 一撃で自分達を消滅させてしまう切り札を持ったポップは、ヒムにとってはいささか相性の悪い相手だろう。

 真正面から距離を詰めての格闘戦が得意なヒムに対し、ポップは距離をとっての戦いが得意な魔法使い。
 しかも、力で相手を押し切ろうと考えがちな直情思考のヒムと違い、ポップは頭脳戦を得意としていて参謀役も兼ねている。

 さらに言うのなら、戦いに関してポップとヒムはとらえ方がそもそも違う。
 戦いを好み、存分にそれを楽しむヒムと違い、ポップにとっては戦いは望んでまで挑みたいものではない。

 戦いよりも仲間の無事を優先するポップの思考と、決戦の最中でありながら個人的決闘を挑んだヒムの思考はあまりにもかけ離れている。
 だが、それでいながら、ポップとヒムは後に共闘を組んだ時、実に息のあった名コンビぶりを発揮している。

 ミストバーンとの戦いの際、ヒムはポップに、自分がミストバーンを抑えている隙にメドローアで吹き飛ばす様にと提案している。ポップはヒムの犠牲を前提にしたその作戦を嫌がって拒否しているが、その際、ヒムがポップに言った一言は秀逸だ。

『……フン! つまらん躊躇をしていると、ホレた女ともども地獄行きだぞ!! オレ一人の命で済むなら安いと思いな』

 敵対関係にありながら、ヒムがポップの性格や実力、ついでに彼の恋愛のお目当てまでもをきちんと理解しているのが良く分かる一シーンだ。親衛隊の中で人間的な感情の起伏が一番強く現れているヒムにとっては、戦場であっても感情のままに行動するポップは、理解しやすい相手だったのだろう。

 戦いへの姿勢は違っても、自分以外の誰かのために戦うという目的ではヒムとポップは似ている。特に、仲間のためなら自滅も恐れない無茶さは、そっくりだ。
 共闘を組んで間もないのに気安く掛け合いをしているヒムとポップは、理屈抜きで馬が合うというべきか、性格的には相性がぴったりだ。

 バーンパレス脱出の際、一人で犠牲になって全員を逃がそうとしたヒムを、ポップは瞬間移動魔法と回復魔法を駆使して助けている。

 あの場にアバンがいたからこそ他の仲間を助けてくれるという信頼感もあったからできたことだろうが、ヒムを死なせたくないとポップが強く考えていたからこそ、仲間全員の脱出よりもヒムの救助を優先したと思える。
 即席とはとても思えない、ヒムとポップの友情を感じられる名シーンの一つだ。
 
 

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