50 一方通行なライバル関係 ヒュンケルとヒム

 

 ヒュンケルとヒムは、都合、四度戦っている。
 最初は、親衛隊と勇者一行の初顔合わせの戦いの時。
 互いの力量を計る目的が大きかったこの戦いで、ヒムはヒュンケルに一際に敵愾心を燃やしている。

 この時、ヒムはダイと初手合わせをしているのだが、自分の力を発揮しきれていない勇者に苛立ちを感じ、ものの見事に自分に手傷を負わせたヒュンケルの方に高い評価をつけている。

 二度目は、死の大地で親衛隊とダイを除く勇者一行の戦いの時。
 もっともこの戦いは互いに互いを抑え合うのを目的として集団戦闘であったため、ヒムが望む様な一対一の戦いの展開にはならなかっただろう。さらには黒の核晶の爆発により、水入りに終わってしまった戦いでもある。

 三度目は、バーンパレスでの戦いだ。
 ヒムが望んだ通り一対一の戦いになったが、この時、ヒムはあっけないほど簡単にヒュンケルに破れてしまっている。

 運が悪かったといえばそれまでだが、ヒュンケルが飛躍的にパワーアップした直後に戦ったせいもあり、驚く程あっさりと退場している。核のある心臓部分をぶち抜かれた上にバーンパレスから落下したのだから、もはやこれで決着がついたかと思ったのだが  ヒムは、しぶとかった。

 死の間際を迎えたヒムの執念は、ハドラーの分身体としてではなく、確固たる意思を持つ生命体として蘇ったのだから恐れ入るより他はない。復活直後、ヒムはさっそくヒュンケルに勝負を挑んでいる。

 これが四度目の戦いであり、ヒムとヒュンケルの最後の戦いでもあった。
 ここで面白いのは、戦う必要もないのに戦いあった二人の心理だろう。ダイとハドラーが自分達の戦いが世界の趨勢とは無関係だと承知していながら戦ったように、ヒュンケルとヒムもまた、自分達の勝負にこだわっている。

 しかし、戦いにこだわりを持っているのは二人とも同じだが、ヒュンケルとヒムでは戦いに対して望む姿勢が似ているようで違う。

 戦いだけが自分の生きる場。勝利こそが全てであり、それを成し遂げれば死んでも構わない。いや、成し遂げられないならば、いっそ潔く死んだ方がまし――その意識を、ヒュンケルもヒムも少なからず持っている。

 生まれてから時間がないため、人格に深みがないのに焦っていたフレイザードが性急に手柄を欲したように、生まれたてのヒムもまた、性急に成果を欲した。
 自分と同じ思考を持ち、それでいて自分以上の強さや自信を持っているヒュンケルを倒すことで、それが手に入れられるとヒムは思ったのだろう。

 だからこそ、彼はどこまでもヒュンケルを追い求め、真っ向から戦おうと望んでいる。
 だが、ヒュンケルはダイ達と出会い、過去の確執をなくしてからそれまでの考えから開放されつつあった。仲間達との触れ合いを経たヒュンケルは今までの自分の美学よりも、仲間達の考えの方を揺るぎない真実であるかのように、高く心に抱いている。

 ヒュンケルにとっては、ヒムとの戦いで勝つだけでは意味はない。
 戦いの勝利などは、問題ではない。戦いの後で、ダイ達がヒュンケルに与えてくれたものこそが正しいと証明することに、意義があるのだ。

 だからこそ、ヒュンケルは敗北と同時に死を願ったヒムの考えを否定し、とどめを刺すのを拒んで仲間になるようにと説得している。
 この時、ヒムはヒュンケルに思想的な面でも、完全に敗北している。

 単に勝利するだけでは手に入らない、生きるために必要な理由や、他者と関わり合うための素晴らしさを、ヒムはこの時に実感したはずだ。
 それに恩義を感じたのか、ヒムはこの後、ヒュンケルの代わりに彼の敵と戦うと自分に誓っている。

 ヒュンケルをライバル視し、戦いで勝利することで手に入れられるとヒムが信じたものは、結局は手に入らなかったわけだが……だが、敗北して得たものは、おそらくはそれ以上のものだっただろう。
 
 

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