7 悲恋! バランとソアラのロミジュリ物語!

 

 バランとソアラの恋は『ダイの大冒険』の中では語られず、回想シーンとして登場しただけだが、なかなか印象深い恋物語だ。

 竜の騎士であるバランと、アルキード王国の王女だったソアラ。
 だが、二人が出会った時は、そんな身分や立場の違いはまるで関係がなかった。
 激しい戦いに傷つき倒れていたバランに、ソアラは無償の助け手を差し延べた。

 バランはどうも、その優しさに一目惚れしてしまったらしい。
 この回想は当然のことながらバランの主観によるものなので、ソアラがバランのどこを好きになったのが分からないのが残念だ。

 だが、バランがソアラを深く愛し、今も彼女への想いを胸に抱いているのは、彼の語る言葉から容易に推測できる。

 美しく、優しく、ただそこにいるだけで人を和ませるような不思議な輝きを持った娘……バランの心に残る彼女は、今もその場にいるかのように鮮やかだ。
 バランは心底彼女に惚れていたに違いない。

 ソアラと共に居ることを望み、やがて愛し合うようになった二人だが、彼女がアルキード王女であったことが、不幸の始まりだった。バランは自分の素性を隠していたらしいがかえって疑われ、怪物の一員と思われて彼の出世を妬む者に城を追われてしまった。

 一時はソアラと別れて傷心のまま去ろうとしたバランだが、おなかに子供がいる彼女が、置いていかないでと懇願してきた。それにより、二人はそのまま手に手を取って駆け落ちすることになる。

 ……しかし、逃げたところがすぐ近くのテランの森深く……。
 こんな所では一年ちょいで見つかるのも当然である。

 ところで原作の絵を見る限りでは、記憶を失ったダイ達が借りた小屋そっくりに見えるのだが、もしここがかつてのバランとソアラの家だとしたら、すごい偶然もあるものである。

 それはさておき、駆け落ちしてから追っ手に見付かるまでの間――この短い期間こそが、バランとソアラにとっては最良の時だったのだろう。ソアラが妊娠に気付き、しかもそれが周囲にバレない程度の時期といえば、せいぜい数か月まで。

 そして、ダイが生まれてしばらくして追っ手の掴まったのだから、どう多く見積もってもバランとソアラが共に暮らしたのは、一年に満たない数か月の出来事だろう。

 だが、普通の人間として森の奥に籠もって暮らす二人にとっては忘れられない時間になったはずだ。

 さて、話はちょっと逸れるが、この二人が暮らしていた小屋、どうもダイ達が一時避難していた小屋とそっくりなので、もしかしたらダイは自分の生家と知らずに、そこで休んだのかもしれない。

 それはさておき、やがてアルキード王国の追っ手に小屋を取り囲まれたバランは、ソアラとダイの身の安全を考えて降伏し、進んで罪を被って処刑を受ける決意をする。

 わざと自分の防御力をセーブし、魔法使い達の一斉魔法を受けて死のうとしたバランだが、すんでのところで飛び出してきたソアラが、彼を庇って一身に魔法を受けてしまった!


 彼を庇い、人間を恨まないでと言い残してソアラは死んでいった……まさにロミオとジュリエットばりの悲恋である。
 バランにとっては、後にも先にもこれが最初で最後の恋だったらしい。

 戦いに明け暮れる彼の人生の中で、唯一の安らぎであり心の聖域だったソアラ――ダイとの親子の確執が氷解し、天へと還っていったバランが、あの世で彼女と再会できることを謹んでお祈りします……。


  

 

8に進む
6に戻る
五章目次に戻る
解析目次に戻る

inserted by FC2 system