9 いきなりダークホース! ヒュンケルに恋したエイミさん |
パプニカ三賢者の一人として華々しく登場した割に、長い間裏方として地味な役割を続けてきたエイミ。 エイミとヒュンケルが顔を合わせたのは、おそらくは対フレイザード戦の後……しかし、ヒュンケルはすぐにクロコダインと二人で偵察にいってしまったので、そう長く一緒にいたわけもなく、恋の芽生える隙もなかった。 次に会ったとすれば対バラン戦の後、レオナの発案でパプニカに全員が戻った時だろう。 しかし、この時もヒュンケルはすぐに修行のため城から出ていってしまったし、多少は会話を交わしたものの、この時点では二人の間になんら特別なものは見られなかった。 行動的なエイミと、単独行動しがちなヒュンケル――この二人、けっこう擦れちがってばかりいたわけだ。ヒュンケルはぶっきらぼうなところがあるし、魔王軍時代はパプニカを滅ぼした男なだけに、エイミはそれなりの不安を抱いていたらしい。 しかし、対鬼岩城戦の後、傷ついいたヒュンケルとダイの看病を命じられたエイミは、彼に間近に接することで彼の優しさや魅力に気づいたようだ。 一見、素っ気ないようでいて、人一倍仲間を思う気持ちの強いところや、その強さとは裏腹に自分の過去にいまだに囚われる傷付きやすい心――そんなヒュンケルの良さに気付いた時から、エイミは彼に恋をしたようだ。 彼のために病室を明るくしてあげようとバラの花を買い求め、嬉しげに城に戻る姿など、恋する人の看病をするエイミは実に嬉しそうで初々しい。 しかし、当時のヒュンケルはエイミの想いなどまるで気づかず、世話になった彼女への挨拶もしないで修行のため旅立ってしまったのだから薄情である。 だが、恋する乙女は挫けない。 恋する乙女は魔王だって怖くなんかないのである。 それに告白が恋の決着と考えているポップやメルルと違って、彼女は告白を単なる通過点としかとらえていない。一度告白して受け入れられなかったのに、それでもエイミはヒュンケルを想いつづけている。 しかし一途なのは認めるが、彼女の行動は感情のままに大胆で、一歩間違えれば単なる我が儘にすぎないほどとんでもないものが多い。 ヒュンケルを戦場に出したくないあまり、勝手にヒュンケルに武器を隠してしまったことさえある。その槍はヒュンケルにとっては友の形見で、ただの武器以上の意味があるものなのに……。 しかし、エイミは自分の意思をヒュンケルにおしつけるような真似をしても、彼が苦しむだけと悟り、その後はヒュンケルのいく道について行く決意を固めた。 敵に捕らえられたヒュンケルを案ずるエイミは、自分の手で彼に武器を渡したいと思うあまり、なんとみんなの前でヒュンケルへの想いを打ち明け、マァムを牽制してさえいる。 もちろん、マァムに嫌がらせをするとか、嫉妬しているとかいうわけではない。 ただ、エイミは愛する人の側にいたいだけなのだ。 振られてもめげないその強さ――女性のしたたかささえ感じてさせてくれるエイミは、停滞していた恋愛関係を一挙にひっくり返し、面白くしてくれた人でもある。
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