10 告白、そして別れ……  エイミ

 

 エイミは自分の気持ちを、心に押し込めていられるような性格ではない。
 彼女は二度、自分の気持ちを告白している。
 一度はヒュンケルに、一度はマァムやみんなに対して。

 しかし、ヒュンケルが好きという想いは変わっていないものの、告白の内容は大幅に違っている。
 ヒュンケルに告白した時は、浜辺だった。

 死の大地の対岸のため景色こそ悪かったものの、なかなか素晴らしい状況の下で、エイミは重傷を押して戦場に行こうとするヒュンケルを心配し、彼を引き止めるために武器を隠し、すがりついてとめようとし――それでも振り払われてしまう。

 去っていくヒュンケルを見つめるエイミには、彼の身に降り懸かる災難がはっきりと見えた。ヒュンケルの身を案じる気持ちが、エイミのためらいを捨てさせ彼女は彼の背にしがみついて、想いをすべて打ち明けた。
 しかし、ヒュンケルはその想いを受け止めようとはしない。

 過去への償いのために戦いに身を投じようとするヒュンケルは、自分に幸せになる資格もなければ、人を幸せにすることもできないと思っているから。

 自分のことは忘れた方がいいと言い残して去っていくヒュンケルに、エイミはただ、泣くことしかできなかった。しかし、エイミはヒュンケルに拒絶された後も……いや、その後の方がかえって彼への想いが強くなったようだ。

 ヒュンケルがクロコダインと共に敵に捕らえられ、明日、総出で彼等を助けそのまま一気に敵陣突入という前日に、エイミは再びヒュンケルへの想いを告白することになる。

 ロン・ベルクの作った、一行の武器のうちポップとヒュンケルへの武器を当然のように代わりに受けとろうとしたマァムよりも早く、ヒュンケルの武器を抱き締めたエイミは、自分の想いをあますことなくうちあける。

 ヒュンケルを愛していること、彼の武器を一度取り上げたこと、しかしヒュンケルの望みが戦いにあると知り、自分もそれに従うつもりになったこと。ヒュンケルと共になら地獄に落ちてもいいと言い切ったエイミは、この恋が成就するには、マァムを傷付けてしまうかもしれないことを知っているのだろう。

 恋人同士とはいえないが、ヒュンケルとマァムには独特の繋がりがある――それを断ち切ることになっても、エイミは彼の側にいたいと思っている。

 最初はヒュンケルが自分の元にきてくれることを望んで告白したエイミだが、彼女はそれが間違いだと悟った。どう思われてもいいから彼のところまで自分がついていくことを決意し、その想いをマァムや皆に打ち明けることによって、はっきりとさせたのだ。

 もちろん、ヒュンケルのところまで行ったとしても、彼がエイミの想いを受け止めてくれる保証はない。
 だが、エイミはまず彼の元までいくと決めたのだ。

 ヒュンケル救出後、望み通りヒュンケルに武器を手渡したエイミは、彼に、戦って、そして生き残ってと伝えている。

 戦力に差があり過ぎて、エイミは最後の戦いではヒュンケルと共に行けず地上に残ったが、気持ちの上ではエイミはヒュンケルと共にあった。
 彼のように戦い、その中で生きるという意味で――。

 生きて、そして帰ること――戦いが終わった後で、ヒュンケルがその言葉思い出すことがあればよいのだが……。


  
  

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