11 フローラ様の想い人

  

 カール王国の女王フローラ。
 毅然とした美しさと聡明さを合わせ持つ彼女は、少女の頃から気にかけていた人物がいる。

 初めて会った時から彼女を助け、自分の強さを隠して騎士団の一員として長く自分に仕え、世界を救うために魔王と戦った勇者……彼の名はアバン。
 二度までも魔王と戦った勇者である。

 フローラは今もアバンを思い続けているし、アバンもフローラのことは忘れてはいない。 なのにこの二人、お互いに想いあっている雰囲気を見せながらも、なぜか結婚はしていないのである。

 救国の勇者とその王女ならば結ばれるのに何の不都合もなさそうだが、実際にはフローラは独身だし、アバンも故郷であるカール王国を離れて世界をあちこち回って弟子の育英に力をいれていた。

 それというのも15年前、アバンが魔王ハドラーを倒した時、世界が完全に平和にはならなかったためだ。
 ハドラーが生き延びいずれは復活することを、アバンはその時から予感していたらしい。
 それゆえに世界が平和になった途端、自分以上の力を持つ弟子達を探し求め、彼等を育てることに専念している。

 アバンがどこまでフローラに真相を話してから去ったのかは、不明である。
 だが、フローラはダイ達でさえ知らなかったアバンのしるしの秘密や、彼等に隠された力についても知っていた。

 アバンはフローラを信頼し、かなりのところまで打ち明けていたのだろう。
 再び魔王軍と戦う時には、彼女の援護をある程度は期待していたのかもしれない。

 しかし、フローラはカールの王女として国を守る役目があるからとても次代の勇者探しまで付き合うわけにもいかず……、結局この二人は世界を救うために私生活を犠牲にしたようだ。責任感が強いと言うべきが、業が深いと言うべきか――一度は世界を救ったのだから、後はおおいばりで自分達の幸せを追及してもいいようなものだ。

 だが、アバンとフローラはともに暮らす幸せよりも、たとえ別れ別れになろうとも同じ志を持って、世界を救う道を選んだのだ。

 これもある意味では悲恋だが、周囲の無理解によりむりやり引き裂かれたバランとソアラとは違う。
 アバンとフローラはあくまで自分達の意思で道を分かち、より険しい道を選んだのだ。


 そして、顔を合わせることもなく、そのまま永遠に別れてしまった……。
 魔王軍の攻撃により母国を失った際、フローラは自分を救出にこない事実からアバンの死を悟った。だが、フローラは悲嘆に暮れた様子は見せず、彼の遺志を継いで最後まで闘い抜こうと決意した。

 アバンの残していった言葉のとおり、彼の弟子達を導いて最後の決戦へと望む彼女は輝かんばかりの神々しさすらあり、非常に美しい。
 まさに、感動ものの純愛ロマン……なのだが。

 ――しかし、アバンが死んだと思われていたから『悲恋』だったのだが、いきなりアバンが復活したことで、どうも純愛一直線とは言えなくなってしまった。

 というか、少々間の抜けた再会をしてしまっているし(笑)
 なんだか純愛が一気にコメディに変わった気がしてしまったが、ともあれ戦い後の最終回では二人が結婚した風な雰囲気を残すカットが描かれている。

 永遠の悲恋は失われたとしても、人間、生きていればこそ花だし、楽しいことが待っていると言うもの。
 少々遅くなってしまった分、この二人には幸せになってもらいたいものだ。


  

 

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