12 マァムとエイミの想いの違い

 

 マァムとエイミ――ともにヒュンケルを絡んで三角関係な女性。
 ポップとメルルのことを考慮にいれれば三角どころか、五角も六角にもなりそうな複雑な関係を描くのだが、とりあえず話をややこしくしているのはこのお二人だ。

 ヒュンケルは今のところ女性と付き合うことは考えてはいないのだが、エイミはそんな彼が好きで、一度振られたにも拘らず彼を一途に追っている。
 しかし、マァムにはそこまでの積極性はない。

 性格的には告白する勇気がないわけでもないし、想いを胸に秘めるタイプでもないマァムが、なぜそれなりのアタックをしないかと言えば、単にマァムは自分の想いに気付いていないからだ。

 マァムはあまり突き詰めて考える質でもなく、エイミがマァムの前でヒュンケルの思いを打ち明けた時も、ただ戸惑っているだけだ。自分の想いがどうかも分からないマァムにはあまり通じなかったようだが、これは明らかにエイミの宣戦布告である。

 エイミにしてみれば、ヒュンケルと特別な精神的繋がりを持ち、彼と共に行動できるアバンの使徒の一人であるマァムは、強力なライバルだ。

 彼の一挙一動を見つめることさえ難しいエイミは、彼女に嫉妬を感じたり、妬んだりしたこともあるだろう。しかし、それとだからといってエイミはマァムに嫌がらせをしたり、意地悪をしたりするために告白したわけではない。

 エイミはマァムの目の前で堂々と自分の気持ちを宣言することで、彼女の気持ちを測りたかったのだろう。はっきりいって、マァムみたいに鈍感な子が相手なら、裏でこそこそとヒュンケルに何度もアタックを仕掛けた方がはるかに効果的なのだが、エイミはそうはしなかった。

 マァムの前でヒュンケルが好きだと打ち明け、彼の武器は私が手渡したいと頼んだのだから、マァムはどうしても嫌だという拒否することだってできたはずなのだ。しかし、マァムは拘りを持ちながらもエイミの願いを否定せず、その場から逃げてしまった。

 たとえマァムを傷付けることになっても、自分の気持ちに正直に生きようとするエイミと、自分の気持ちにただ戸惑うマァム――この二人の想いが大きく違うのは、自覚の差というものだろう。それに慈愛の使徒であるマァムの優しさが、人の想いを妨げることをためらわせるらしい。敵であるアルビナスの恋心さえ大切にしようとするマァムが、仲間であるエイミやヒュンケルの心を傷つけるような真似を好むはずもない。

 エイミの宣戦布告にもかからわず、マァムが自分の想いを自覚するまではまだまだ時間がかかる。エイミとヒュンケルが愛し合うようになるかどうか気になって仕方がないけれど、ポップにも無関心ではいられない……乙女の心は複雑だ。

 ヒュンケルの方からアプローチする気がまったくない以上、ここは女の子の方からの頑張りがこの恋の行方を決める重要ポイントだが、すでに好スタートをきって走っているエイミに比べ、マァムは出遅れているとしか言い様がない。

 ヒュンケルを好きになれば、マァムはエイミと共に彼を競うことになるし、ポップを好きになれば、メルルに失恋の傷を負わせることになる。
 ――でも、好きになってしまえば、人間、我慢できずに突っ走ってしまうもの。

 最後の戦いが終わってからスタートラインに並ぶ決意をしたマァムは、はたしてどちらを選んだのだろうか?
 作品中で最大に気になるまま終わった謎だった(笑)


  
  

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