14 アルビナスの命をかけた恋!

 

 

 ダイ一行は恋愛関係で華やいでいるが、敵陣はそんなのはほとんどない。
 ……そりゃあ何百才のおっさん揃いの魔王軍でラブラブ話が起きる方がどうかと思うが、唯一の女性の敵、アルビナスだけはそんな奴等とは訳が違う。

 親衛騎団のリーダーである女王アルビナスは、自分の作り主にして主君であるハドラーに対して、ただの部下以上の気持ちを抱いていた。
 平たく言えば、アルビナスはハドラーにぞっこんで、彼を愛していた。

 しかし、アルビナスはそのことを誰にも知られたくないと思っていたようだし、自分がそんな思いを持っていることを認めようとせず、ひたすら否定していた。

 だが、いくら隠そうとし、自分をごまかそうとしてもごまかせないのが恋心と言うものである。自分の感情よりもハドラーの命令を尊重し、ハドラーのためになると思うなら彼の命令すら逆らうアルビナスの忠誠心は、他の親衛騎団を凌いでいる。

 アルビナスはハドラーの存命を願うあまり、ハドラーの意思に背いてまでダイを初めとするダイ一行全員を殺し、それを手土産にバーンに願い出てハドラーを助けてもらうつもりがいた。

 こんな無謀な行動が、並の忠誠心で思いつけるわけはない。
 それもそのはず……彼女はハドラーに愛を感じているのだから。単に部下としての忠誠心と、女の一途な愛を秘めた忠誠心じゃ、比べ物にならないのは当たり前。
 だが、アルビナスの不幸は、自分でその思いを打ち消し続けていたこと。

 多分、アルビナスは自分とハドラーが結ばれないと知っていたに違いない。
 ハドラーは特にアルビナスを女性として意識していた様子もなかったし、魔族はそもそも感情自体が疎い。

 アルビナスをただの部下としか見ていないハドラーを見て、彼女は思ったのかもしれない――彼が望むのなら、最高の部下として彼のために尽くしたいと。そんなアルビナスの思いに気づき、人を愛してそのために戦うアルビナスを助けたいと思ったのは、彼女と戦ったマァムだ。

 しかし、アルビナスはかたくなに自分がハドラーを愛していることを否定し、彼女に同情して戦おうとしないマァムに容赦のない攻撃を仕掛けている。

 だが、アルビナスに対する同情心をふっきって戦うマァムは、アルビナス以上の力を発揮して勝利をもぎ取った。

 負けて、死を迎える直前になって、初めてアルビナスは素直になる。
 ただ物理的な強さという点だけではなく、思いの強さでもマァムに負けた――やはり、駒は人間にはかなわないのかと独白するアルビナスは、戦いに関しては悔いがない。

 だが、唯一の心残りは、ハドラーのこと。
 ハドラーを一分でも一秒でも長く生きさせてあげたかった――それが彼女の願いであり、自分の命や思いよりも大切なことだった。

 自分に代わってあの方の最期の勇姿を見届けてとマァムに言い残し、アルビナスはこの世を去った。

 ハドラーによって生み出されたアルビナスは、ハドラーが死ねば命が尽きる運命だったが、どうせ死ぬにしてもせめてハドラーの最期を看取らせてあげたかった……そう思うのは、感傷だろうか。


  
  

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