15 全ての人への愛、一人の異性への愛

 

 エイミはヒュンケルが望むのならば、共に地獄に落ちると言い切った。
 メルルはポップを助けるため、命すら惜しまず身を投げ出した。
 ポップはメルルに背を押され、マァムを好きだと告白した。

 アルビナスはハドラーのため、すべてをかけて戦いを挑んだ。
 わずかな時の間に、身近な者達が愛のためにさまざまな行動を取るのを目の当たりにしたことで、マァムは初めて愛について考えるようになる。

 最初のきっかけはエイミのヒュンケルへの想いを聞いて動揺し、自分の想いに悩んだところから始まった。
 ヒュンケルに惹かれているか、どうかはっきりしないもやもやした想い――。

 普段ならマァムの悩みごとならなんでも快く相談に乗るポップが、彼女を撥ね付けたことで一人で答えを出すことになるが、結果的にはそれが良かったようだ。

 マァムが気がつかなかったさまざまな想いに触れて、彼女はただ戸惑うばかりで、どう反応することもできずただ見ているだけしかできなかった。
 実際、マァムは恋する彼女達のパワーに圧倒されていたといってもいい。

 エイミにしろ、メルルにしろ、決して強いとはいえない普通の女の子が最後の大戦に挑んだのは、愛する人の側にいたいと思う乙女心だ。
 世界を救うことよりも、彼女達にとっては恋する人の無事こそが最優先事項。

 いくら強いとはいえ、みんなを助けたいと思って戦いに望むマァムとは心構えからして違う。マァムは慈愛の使徒だけあって、敵にさえ惜しみのない優しさ……愛を振り撒く少女である。

 なんの見返りも期待することなく相手のためを思い、深く同情心を抱くことのできる少女だ。
 だが、すべての人に平等に抱く同じ想いならば、それは愛とは呼べないだろう。

 敵にも味方にも同じように愛の心を抱いているならば、マァムはとてもではないが、最後の戦いを超える戦いには参加できまい。力が緊迫している接戦なら尚更、良かれ悪しかれ、どうしてもこれだけは貫きたいと思う気持ちの強さが勝敗を分ける鍵となりかねないのだから。

 アルビナスとの戦いで、マァムは万人への愛よりも一人の人に注ぐ愛の方が強いことを悟る。
 守りたいと思うもの、大切な人がいると言うことこそが人を強くすると悟るのだ。

 たとえ同情を感じる相手を傷つけてでも、大切な人を守りたいと思う――そんな気持ちをもったマァムはようやく『愛』に目覚めたのだ。
 思えば、これはマァムにとっては大変な成長だ。

 恋愛に興味がなくいまいち女の子としての羞恥心にかけているマァムだが、愛のために全てを掛ける女の子達を見て、ようやく普通の少女のように恋に憧れる気持ちを持ったらしい。

 誰かを愛したいと思うようになったマァムは、もうエイミやメルルに圧倒されるだけではなく、ちゃんと自分なりの想いを持って、反応することができるようになるだろう。

 その慈愛の心を一人の異性への愛と変えて、マァムが誰を好きになるのか――それこそが『ダイの大冒険』の恋愛関係の最大の鍵だったと、今でも確信している。
 …………うぅう〜〜っ、返す返すも恋愛関係に決着がつくまで連載が続いて欲しかったものであるっ(<-心からの叫び)
 

 

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