16 惹かれながらも、擦れ違う……マァムとヒュンケル |
マァムとヒュンケル――互いに相手に特別な感情を抱きながらも、二人とも長いことそれを口にすることはなかった。なぜならマァムはヒュンケルへの想いが恋なのかどうか確信がなかったし、ヒュンケルは元々想いを口にする性格ではないから。 しかし、エイミがヒュンケルを好きだと知り、メルルがポップを、そしてポップが自分を好きだと知り戸惑っていたマァムは、アルビナスとの戦いを経て愛の強さを思い知った。 面白いもので、マァムはポップの強さを信頼している割にはどこか危なっかしいところのあるポップを心配する傾向がある。 ヒュンケルにその事実を指摘されてから、マァムは初めて気がついた。 自己嫌悪に浸るマァムに、ヒュンケルはいつになく優しく彼女を励まし、後押しをしている。
マァムはエイミとヒュンケルのことを聞くが、ヒュンケル自身はエイミの愛に応えてはやれないと思っている――だが、ヒュンケルにも愛が理屈ではなく、自分では押さえられない感情だと分かっている。昔、アバンへの相反した気持ちを無理に抑え付けたがゆえに悪に走った過去を持つヒュンケルは、マァムに同じ轍を踏ませたくはないと思い、彼女に忠告する。 もし、わずかでも言葉にできない想いをポップに抱いているなら、それを心に溜め込まずに確かめればいいと。 マァムのためにも、そしてポップのためにも、そうして欲しいと望むヒュンケルに後押しされ、マァムは迷うよりまず、想いを確かめるためにポップの元に駆けていく。 ヒュンケルにとって、マァムは闇に落ちかけた自分を救ってくれた慈愛の天使だった。 望むものは彼女の幸せ……みんなのためだけではなく、自分自身の愛を見つけて生きる、そんな幸福を祈らずにはいられない。 ――自分ではマァムを幸せにできない、と知っているから……。 お互いに相手に惹かれてはいても、マァムにせよヒュンケルにせよ、その気持ちは恋とはいえない。 マァムのヒュンケルへの想いが、限りなく同情に近い慈愛の心だったように、ヒュンケルのマァムへの想いは、美しいもの、優しいものに無条件に惹かれる憧憬に近い。 ヒュンケルにとって、マァムはいつでも幸福でいてほしい天使ではあるけれど、自分の手で幸せにしてあげたい少女ではない。 ポップの想いの深さを知っているヒュンケルは、ポップこそがマァムを幸せにできると思っているのかもしれない。マァムとポップのために、彼女の後押しをするヒュンケルに、ヒュンケルを残してポップの元に走るマァム――なんとなく象徴的なシーンだが、このシーンこそが恋愛関係の終結の形とは言い切れまい。 ヒュンケルは自分のマァムへの気持ちを整理していても、マァムの心はまだ決まっていない。――あるいは決まっているのかもしれないが、本人はまだ、結論に達していると思ってはいないのだから……。
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