4 先代勇者一行、僧侶のレイラさん |
ネイルの村に住む、僧侶レイラ。 もっとも、マァムとレイラはぱっと見てすぐに親子と分かるほどよく似てはいないが。 優しそうでいて控え目な印象の女性だが、芯はしっかりしていそうだ。 いつ父親がなくなったのかは不明だが、マァムやマトリフの様子から見ると相当前のようだ。 ましてやマァムは女の子ながらしっかりと村を守ってきた逞しい娘だ、そんな風に教育したのは、紛れもなくレイラの方針によるものだろう。
しかも、旅の間にロカと恋仲に陥り、魔王退治の一年前にマァムを生み落としたぐらいだから、見た目によらず情熱家ともいえる。 若き日のレイラやロカのケンカ光景は、今のマァムとポップのやりとりを彷彿とさせる夫婦漫才風味があり、彼女が若い頃はなかなかのおてんばだったという立証になっている。 アバンと並んで世界を救った勇者一行の一員だというのに、レイラの暮らしぶりはとことん地味だ。 なんせネイル村というチンケな村にひっそりと住み、今は普通のおばさんとして暮らしている。 救国の勇者ともなれば名誉を与えられ、貴族かなにかにとりたてられてもおかしくはない。それにレイラが結婚したロカは、カール王国の騎士団の一人、ネイルではなくカールに住めば、レイラもマァムも国の名士として悠々とした暮らしが送れたはず……。 と、ここまで考えて気付いたのだが、なぜレイラはネイルで暮らすことにしたのだろうか? 常識的に考えれば、違う地方に住む男女が結婚した場合、たいていは男の故郷側の方に住居を構える例が多い。 ロカが死んでからレイラが娘を連れて故郷に帰ったと考えれば自然だが、マァムがアバンに修行をつけてもらう際に、こう発言している。 つまり、マァムの知っている限りでは、ロカもネイルに住んでいたことになる。 なにせマァムの住んでいたネイルは、別名魔の森と呼ばれる怪物の巣窟のような森の中に存在している。 そうと知っていたからこそレイラは安楽な生活を捨てて故郷に戻り、娘にも村を守ることができるように、教育したのだろう。夫亡き後、ネイルで静かに暮らすレイラは、マトリフやアバンのように再び前線に登場する考えはまるでなかった。 遠くで見守り、子供達の帰りを待つ母親――レイラはそのスタンスで物語最終回を迎えた。
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