4 先代勇者一行、僧侶のレイラさん

  

 ネイルの村に住む、僧侶レイラ。
 マァムの母親に当たる女性だ。
 16才の娘がいるとは思えないくらい若々しい母親で、マァムと並んでいると年の離れた姉妹程度にしか見えない。

 もっとも、マァムとレイラはぱっと見てすぐに親子と分かるほどよく似てはいないが。
 目鼻立ちは母譲りだが、マァムは髪質や気の強そうな感じは父親に似たらしく、ウェーブのかかった黒髪のレイラとはパッと見た感じあまり似てはいない。

 優しそうでいて控え目な印象の女性だが、芯はしっかりしていそうだ。
 なんといっても、彼女は未亡人っ! ……あ、いやいや、そこは考察にはあまり関係がない部分だが(笑)

 いつ父親がなくなったのかは不明だが、マァムやマトリフの様子から見ると相当前のようだ。
 ただおとなしいだけじゃ、とても女手一つで娘を育てることなんてできやしない。

 ましてやマァムは女の子ながらしっかりと村を守ってきた逞しい娘だ、そんな風に教育したのは、紛れもなくレイラの方針によるものだろう。
 彼女が見た目と違ってかなり無鉄砲な処があることを示す、絶好のエピソードがある。


 15年以上前、レイラはたまたま村を通り掛かったアバンとロカに出会い、二人が傷つきながらも旅を続けるのを黙って見過ごすことができず、村を飛び出してしまったと言うのだから、なかなかとんでもない女性だ。

 しかも、旅の間にロカと恋仲に陥り、魔王退治の一年前にマァムを生み落としたぐらいだから、見た目によらず情熱家ともいえる。

 若き日のレイラやロカのケンカ光景は、今のマァムとポップのやりとりを彷彿とさせる夫婦漫才風味があり、彼女が若い頃はなかなかのおてんばだったという立証になっている。
 その頃に比べると、今のレイラはずいぶんと落ち着いて見えるが、年と共に性格が穏やかになったのだろうか。

 アバンと並んで世界を救った勇者一行の一員だというのに、レイラの暮らしぶりはとことん地味だ。

 なんせネイル村というチンケな村にひっそりと住み、今は普通のおばさんとして暮らしている。
 勇者アバンの名は知られていても、一行のメンバーの情報までは出回っていないらしく、ダイやポップはマァムから聞かされるまでレイラの存在自体を知らなかったぐらいだ。

 救国の勇者ともなれば名誉を与えられ、貴族かなにかにとりたてられてもおかしくはない。それにレイラが結婚したロカは、カール王国の騎士団の一人、ネイルではなくカールに住めば、レイラもマァムも国の名士として悠々とした暮らしが送れたはず……。

 と、ここまで考えて気付いたのだが、なぜレイラはネイルで暮らすことにしたのだろうか? 常識的に考えれば、違う地方に住む男女が結婚した場合、たいていは男の故郷側の方に住居を構える例が多い。

 ロカが死んでからレイラが娘を連れて故郷に帰ったと考えれば自然だが、マァムがアバンに修行をつけてもらう際に、こう発言している。
 『あたしも父さんや母さんみたいに村に人達を守ってあげたい』と。

 つまり、マァムの知っている限りでは、ロカもネイルに住んでいたことになる。
 どうやら、ロカの方が母国を捨ててネイルに住み着いたらしい。

 なにせマァムの住んでいたネイルは、別名魔の森と呼ばれる怪物の巣窟のような森の中に存在している。
 強力な守り手がいなけば、村の存続すら危ぶまれる危険地帯だ。

 そうと知っていたからこそレイラは安楽な生活を捨てて故郷に戻り、娘にも村を守ることができるように、教育したのだろう。夫亡き後、ネイルで静かに暮らすレイラは、マトリフやアバンのように再び前線に登場する考えはまるでなかった。

 遠くで見守り、子供達の帰りを待つ母親――レイラはそのスタンスで物語最終回を迎えた。

 


  
  
  

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