9 頑固で偏屈な武器屋の親父、ジャンク

   

 ポップの父親、ジャンクは背はさほど高くもないががっちりと幅広な体格がいかにもたくましそーな、見た目からして怖い親父さんだ。
 ポップの実家が武器屋で、彼はホントは家出少年だというのは、物語のかなり初期から分かっていることだが、家族や故郷が作品に登場するのは、かなり後の話。

 レギュラー陣みんなの中で、ただ一人両親健在のポップ君だが、なぜか彼は家の話などほとんどしたことはない。一度、ベンガーナのデパートにびっくりして、実家の武器屋の百倍はでかい、と言ったぐらいのもの。

 実際、ジャンクの店は小さな店だ。
 なんせ、住んでいる場所がランカークスという名もろくに知られていない小さな村で、武器屋はたった一件しかないという僻地、そうたいして大きな店ができるはずもない。

 元ベンガーナ王国の宮廷武器職人だったわりには、たいそうな落ちぶれようだが、本人はそれを気にしている様子もない。
 頑固で偏屈者なのは確かなようだが、なかなか気さくで話の分かる男だ。

 息子には厳しいが、突然やってきたダイ達には親切で、ちゃんと話も聞いて頼みも引き受けている。魔族のロンとも屈託なく付き合っているし、どうやら彼の人好き合いの基準は気にいるか気にいらないかだけで、年齢や立場は一切頓着しないようだ。

 子は親の鏡とはよく言ったもんで、ポップもそのへんは父親そっくりだ。本人はどこまで意識しているのかしらないが、ジャンクの行動や考え方はポップに大きく影響を及ぼしている。…まあ、ポップのあの口の悪さと、減らず口も親譲りのようだが……。

 ジャンクにとっちゃ、ポップはたった一人の子供、しかも跡継ぎとなる男の子だ。
 普通なら、家の仕事を継がせるためにしっかりと仕込むだろうが、ジャンクはとくにポップに鍛冶屋の仕事を教えた様子もない。

 だいたい、ポップは父親がかつてはベンガーナの王宮鍛冶屋だと言うことさえ知らなかったぐらいだ。

 まぁ、連載当初のポップは、自分からアバンに弟子入りしておきながら、魔法の修行さえろくすっぽやらないという根気のない性格だったし、ジャンクも息子の性格は知っていたから、あえてやる気のないポップを鍛える気がしなかったのかも知れない。

 言うことを聞かない息子には体罰、という主義の一徹親父だが、ジャンクはポップの自主性は尊重している。その証拠に、パプニカ急襲の知らせを聞いたポップが、自分達で魔王軍を防ぐと言い出した時止めようとはしなかった。

 息子が自主的に行動する姿勢を尊重し、それを止めずに見守るというのは、簡単そうでいてなかなかできることじゃない。たとえそれが正しいことでも、それよりも子供の無事を心配してしまうのが親心と言うものだが、ジャンクはそうじゃない。

 もちろん、ポップの身を案じていないわけじゃないだろうが、息子が一人前の男になったことを喜び、強く生きることを望んでいる。その望み通り、ポップは大魔道士に成長して、勇者一行の主力メンバーとして最期まで活躍した。

 でも、意地っ張り同士の似たもの親子のこと、ジャンクは面と向かって息子を褒めるような軟弱な真似などはしないだろうが……。

 物語が終わってからポップが里帰りする機会があったなら、褒めるどころかさぞかし派手な親子喧嘩を披露したに違いない。それを見れなかったのが、心残りといえば心残りである。
 
 

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