10 優しいお母さん、スティーヌ 

  

 すらりとした体付きの、長い黒髪を無造作に後ろにまとめた、清楚な感じの女性――ポップの母スティーヌは、エプロンがよく似合う優しいお母さんだ。
 少々地味な感じはするが、優しい面立ちの女性で、ポップによく似ている。と、いうよりポップが母親に似たというべきか。

 しかし、顔や体付き母譲りでも、性格的には全然似ていないようだ。
 スティーヌは、控え目で女らしい性格の持ち主のようで、家出したポップが帰ってきたのを見て、涙ぐんで抱き締める優しい母親だ。

 父親が厳しい代わりに母親がとことん甘くなるというのはよくあるパターンだが、ポップの家もそれに近そうだ。

 父親に怯えていたポップも母親には会いたかったらしく、看板を出そうとして椅子から転げ落ちそうな母を見て、思わず飛び出していってしまっている。
 あの意地っ張りのポップが、泣きながらごめんと謝っていたぐらいだから、ポップは常々母に心配をかけて悪かったと思っていたのだろう。

 息子が一人前の男になったことを喜ぶジャンクと違い、スティーヌはただひたすら息子の身を案じる母親である。なにせ勇者とはいえ、ポップより年下のダイにポップのことをよろしくと頭を下げるほどだ。
 いかにも心配症な女性らしいエピソードではある。

 ところでおもしろいことに、この夫婦、ポップの家出を黙認していたようなところがある。ポップがどんな状況で家出したかは、物語では語られてはなか
った。

 だが、ポップはアバンの正体を知らないまま押しかけ弟子になったのは確かなのだが、ジャンクとスティーヌはアバンの正体を知って可能性がある。

 考えてみれば、ジャンクは元ベンガーナの王宮に出入りしていた身、世界を救った勇者の名や顔を知っていたとしても不思議ではない。

 スティーヌがアバンのことを語るとき、『アバンさま』と尊称をつけて呼んでいたことも、それを裏付ける証拠となりそうだ。まあ、確証はないので、ポップが帰ってきて事情を話した時にアバンの話を聞いた可能性も捨てきれないが。

 しかし、相手が勇者だろうとあるいはただ通りすがっただけの旅人だろうと、ポップが家出してしまったことで、アバンを恨んだスティーヌは、やはり子供のことを一番に案じる母親だ。

 帰ってきたかと思えば、また飛び出していってしまった鉄砲玉のような息子を持った彼女には、気苦労が絶えそうもない。

 だが、それでもスティーヌは、戦いの最中と同じように物語の後でもポップの無事を祈り、彼の帰りを待っていることだろう。
  

 
  

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