12 親バカ親父、がんばれ! リンガイア将軍バウスンさん

 

 レオナの命令で三賢者が探して助けた、滅びた国の指導者の一人――それが、リンガイア将軍、バウスンだ。顔に入った傷が凄味を感じさせる、まだ働き盛りの年齢の将軍だ。

 彼は将軍にすぎないが、リンガイア国王とは生死不明の状態ではぐれたままなので、物語の中ではリンガイアの実質的な指導者の役割を持っていた。初登場時は、戦いで負った傷も痛々しく、腕を吊りあちこちに包帯を巻いているという無惨な姿だった。

 実際に魔王軍の猛攻を受けただけに、彼の言葉は説得力があり、なかなか渋い役で登場した。そして、一度滅びたリンガイアで部隊を再編成し、レオナ達と共に再び戦うための率先者の一人として、集まったダイ達を向かえた時はケガもすっかり回復してりりしい鎧姿で、なかなかかっこいい再登場を果たしたのだが、その後が悪かった。

 ダイを公然とバカにし、生意気を言ったノヴァ――実の息子を諫めることさえできなかった事実により、一気に株が大暴落っ!

 ……ああ、一見かっこいい中年のおじさまも、しょせんは反抗期の息子を押さえることもできない、親馬鹿親父だったとは……人間って、奥が深い。

 将軍としては一流かもしれないが、バウスンは父親としては少々息子を甘やかしすぎのようだ。例えばポップの父ジャンクだったら、もし息子が他人にあんな態度を取っていたら、容赦なく叱り付けるだろうに……。

 どうしてそんな失敗をしてしまったかと言えば、やはり、男手一つで育てたためらしい。

 妻は早くに亡くし再婚はしていない――つまり、ノヴァが唯一の身寄りなわけだ。母親を失った子供を不憫に思い、つい甘やかしてしまう……非常にありがちなパターンである。
 ましてや、ノヴァは剣技に長けているし、自己中心的でわがままとはいえ、なかなかしっかりした性格だ。偏りがあってもしっかりした性格の子だと思って、情操教育を軽んじておざなりにした可能性も捨て切れない。

 だいたいいくら剣の腕が立つからとは言え、たかが16才の少年に軍隊の指揮を執らせるほうが間違っている。年齢が低くても優れた人材を使うと言う発想自体は見上げた心掛けだが、上に立つ責任者にはなまじな腕前よりも、人格の方を優先して人選すべきだ。

 若いうちに調子に乗せるのはあまり感心できることじゃない。
 案の定、登場時のノヴァは、遠征に失敗した父親の言うことはおろか、まだその実力すら見ていなかったダイ達をも見下し、独断に走った。

 しかし、それに対するバウスンの反応がまた情ない。
 息子の非礼を詫び、それでも息子を許して助けてくれと頼むところは、まさに親馬鹿的発想だ。やっぱり、この甘さが息子を増長させたのだろう。

 レオナやみんなのノヴァに対する辛辣な意見を、顔に縦線をいれつつも押し黙って聞いていたバウスンさん。彼はどうも息子を甘やかしがちで、息子にとっては乗り越えるべき目標にはなりそうもない。

 でも、物語の最後でノヴァはロン・ベルクの人柄に引かれ、彼に弟子入りすることを決意し、生きる方針を固めた。それを誰よりも喜び、ノヴァのこれからの成長を願っているのは、きっと彼だろう。

 息子と戦うこともなく、厳しくすることもできず、放任することもできない、ごく普通の甘い父親――それが猛将軍バウスンさんのもう一つの顔だ。

 少しばかり情け無い気もするが、世界を救う勇者ばかりが人間ではない。世の中にはごく普通の人達の方が、大多数いるものだ。戦う力はなくとも、ただ、家族を大切にしたいと願う人々――そんな人もいるから、勇者達も彼らを守りたいと思い、戦えるというものだろう。


  
   

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