3 パプニカお家騒動(2)

  
 

 魔のさそりの毒により、意識を失ったレオナ。
 そんなレオナを助けたい――その思いが、ダイの中の眠れる力を引き出すきっかけとなっている。

 だが、一番最初の力の発動の時、ダイは全く自分の力をコントロール出来てはいなかった。力が発動された時、ダイの額に竜を模した紋章が浮かび、勇者だけしか使えないラィディンを使っていた。

 だが、これはレオナを助けるという意味では、かなり的はずれな力の発動方法だ。
 目的のためには、回復魔法を使った方が断然に効率がよい。現にダイ自身も自分に強い力があるか、回復魔法を使えればいいのにと望んでいた。

 しかしダイの望みや考えとは関係なく、竜の紋章の力は破壊の方向……しかも、精神力のみで発動する魔法の方向に現れている。
 回復魔法は使えなかったにせよ、後のダイの力を考えれば、魔法を使わなくとも大岩を砕くぐらいの腕力が強化される方向に発揮されても良かったはずだ。

 その方がレオナにとっては安全でもあったし、脱出もたやすかったはず。
 だが、この時のダイには自分の意志で龍の紋章の力を操ることがまったくできていない。しかも紋章は魔法を使った直後、一瞬で消えている。

 感情の高ぶりが、そのまま攻撃魔法となって爆発した様な印象を受ける。
 結果的に、ライディンのおかげで洞窟脱出は果たせたものの、これは一歩間違えれば自滅しかねない力の発動だった。

 とりあえずは洞窟を脱出したダイは、キラーマシーンに乗ってブラスを攻撃しているバロンと遭遇し、戦うことになる。
 ここで、ダイは再び紋章の力を使うが、注目したいのはブラスの危機を見て力を使った点だ。

 その直前、ダイ自身がキラーマシーンに襲われた時には全く発動する気配もない。自分よりも、他人の危機の方に強く反応し、助けたいと思う――ダイの勇者としての資質が、すでにこの時に明確になっている。

 また、敵を前にしたこの時の方が、紋章の力が現れやすかったのも注目ポイントの一つだ。
 ライディンを無意識に放った時とは違い、ダイは敵にぶつけるためという目的を持って魔法を使用している。

 魔法の使い方が、本人がきちんと考えて使用しているというよりは本能的な行動の様に見える傾向があるが、ダイはこの時、キラーマシーンに魔法が通じないと判断して、自分の力で一ヵ所だけに攻撃を集中するという作戦を実行している。

 わずかだが装甲を破壊し、その穴から魔法を打ち込んで中にいたバロンに直接ダメージを与えることで、勝利を収めている。
 紋章が浮かんでいる時間はごく短いし、この時点では普段と違って強力な魔法を使えるようになると言う能力として表現されている。

 後に明かされるダイの特殊性や高い攻撃力や脅威の防御力などは、この時はまだ目覚めてはいない。
 そのせいもあってか、ダイはパプニカ王国にとっては王女レオナを救った勇者として認識され、暖かく受け入れられている。

 そして――幸か不幸か、レオナはこの時、ダイの力を直接は見てはいない。
 魔のさそりとの戦いの時も、バロンとの戦いの時も気絶していた彼女は、ダイの力は目撃してはいないのだ。

 人伝に聞いたダイの活躍ぶりや、気絶の合間にかすかに見たダイの頑張り、地下洞窟で倒れたレオナを気遣う時に見せた優しさ……レオナが彼を勇者と認めたのは、それらを総合してのことだろう。

 つまりレオナは、ダイが特殊な能力を持っているからこそ勇者だと考えていたわけではないのだ。

 レオナがダイの本当の力を知ることになるのは、ベンガーナ王国での戦いまで待たなければならない。そしてその時こそ、レオナがダイの凄まじい力を初めて目撃したことに大きな意味が生まれるのだが、それはまた、後の話になる。

 この時点ではダイとレオナは友情を結び、ダイが未来の勇者としてロモスだけでなくパプニカでも認められていた……それが、この戦いを経てダイが得たものだろう。

 


《蛇足なおまけ♪》
 ダイの戦いの考察という意味では、あまり考えても意味がない部分なので本文では省いたが――筆者には長年抱き続けている素朴な疑問がある。
 読み切り版だけに登場した、賢者バロンの実力について、だ。

 美形で、インテリっぽい発言と不敵さが目立つバロンは、一見『出来る男』という印象がある。……だが、それは果たして、本当にそうなのだろうか。
 たとえば、賢者バロンはレオナに氷系魔法を伝授したと明言している。

 いざとなったらそれを使えば何の問題もないとまで言っているが、……その割にはレオナが戦いで咄嗟に使ったのは、ギラだった。
 裏切りが発覚する前から、魔法の教師としても信頼されていないようである。

 さらに言うのならバロンは賢者として登場した割には、直接魔法で戦うのではなく、自分の魔法力を媒体にキラーマシーンという機械仕掛けを利用して攻撃をするという方法で戦っている。操縦はしているものの、言ってしまえばバロンは機械を動かす乾電池の役割なのである。

 キラーマシーンの構造上、使用出来なかったのかもしれないが、バロンは攻撃魔法はもちろん、傷ついた時でさえ回復魔法さえもいっさい使ってはいない。
 さらにさらに、このキラーマシーンを改造したのは実はテムジンである事実も見逃せない。

 ……このバロンは本当に本物の賢者なんだろうかとは、連載時から密かに抱き続けている疑問である(笑)
 

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