4 アバンの修行 (1)

  
  

 平和を打ち破って唐突に復活した魔王――ダイの本当の物語は、ここよりスタートする。
 世界中で怪物が人々を襲い始め、デルムリン島でも怪物達が暴走し始めたことにより、それまではダイの世界は一変する。

 唯一、ゴメちゃんだけは正気だったものの、ダイにとっては親に等しいブラスさえも人間を襲う怪物の本能に目覚めかけている有様で、ブラスはダイを傷つけないうちに島から脱出させようとしている。
 だが、ダイはこの時、それをはっきりと拒絶している。

 ブラスや仲間達を見捨てて逃げるのは勇者のすることでないと、ダイは逃げるのを拒否したのだ。自分の身の危険よりも、仲間達の安否を気遣う――この時のダイの決断力や思考方法は、彼の基本となっている。

 まあ、その後どうするかをまったく考えてないあたりが無謀ではあるが、ダイの優しさや頑固さのよく分かるエピソードだ。
 そして、そのピンチを救ってくれたのが、島を訪れたアバンである。

 勇者の家庭教師と名乗った彼は、デルムリン島全体を聖なる魔法陣で覆い、怪物達の暴走を食い止める。この時、アバンはパプニカ王国からの依頼で、ダイを真の勇者へと育てるためにきたと説明している。……なんだか泥縄的な上に無茶な話ではあるが、ダイはその話を大乗り気で受けている。

 レオナを助けるため、そしてブラス達を助けるために本当の勇者になって魔王を倒すと、とダイはこの時に発言している。
 このダイの決意もまた、最期まで変わることなく物語のテーマになっているのだ。
 そして、修行の第一歩はいきなり実戦だった。

 魔王軍の偵察隊である鳥人間(ガーゴイル)A、Bとの戦い――は、ダイにではなく、兄弟子であるポップに与えられた修行だった。
 ここで注目したいのは、ポップが自主的にガーゴイル退治を申し出たのではなく、アバンに言いつけられたからこそ嫌々やっているあたりだろうか(笑)

 戦いや修行が嫌いというポップの傾向は、すでに初登場の時から出ているのだ。
 そして、ポップの戦法にも注目したい。
 口先で相手を挑発して気を引きつけ、自分の使える最強魔法(この当時はメラゾーマ)でとどめを刺す――後に最終決戦付近でポップが行った戦法と基本的に大差はない。

 むろん、使用魔法のレベルや挑発や駆け引きの巧さは後になるほど上達していくが、ポップの基本戦法はこの時点で確立されていると言っていい。
 しかし、この頃はまだまだ未熟で、敵を一匹倒した後にもう一匹にマホトーンで魔法を封じられてしまっている。……詰めの甘さも、この時からしっかりとでているようだ(笑)
 

 魔法を封じられたポップは焦りまくっているが、それとは対照的にアバンが全く動じていないのが面白い点だ。このピンチをポップがどう切り抜けるか、見定めようとしていたように思える。

 だが、ここでポップを助けたのはダイだった。
 パプニカのナイフで、ダイはガーゴイルと切り結ぶ。この時のダイは力と速度で最初こそ相手を押しているが、リーチの短さが致命的だった。空中に飛び上がったガーゴイルが長剣で攻撃してくると、途端に防戦一方に追いやられている。

 苦戦するダイを見て、ポップが思わず側に駆け寄ろうとするシーンがあるが――これもポップの特徴を如実に表すシーンの一つだ。魔法を封じられた以上、ポップが参戦するなど無謀極まりないはずなのだが、他人の危機を目の当たりにすると感情が先にでてしまうのだろう。

 だが、アバンは冷静に状況を見て、絶妙のタイミングでダイに自分の剣を貸し与える以外は手を出さず、最期までダイが自力で戦うのを見守っている。
 その結果、ダイはガーゴイルをものの見事に一刀両断するが、この時、ダイの額が一瞬だけ光る演出が施されている。

 竜の紋章がはっきりと浮かんだわけではないが、秘められた力を一瞬だけ使ったと思わせる演出である。
 ダイ、ポップ、アバンの戦いにおける考えやスタンスが、よく現れている初戦だ。

 ところで、全くの余談になるが、アバンがダイに対して真顔で「由緒正しい伝説の名剣ですよ」と、言って貸した剣が、実は安物の10ゴールドの剣だと言うオチがあるが  この演出が後々、弟子に平気で嘘をつく師匠としての伏線となっている……と考えるのは、さすがに穿ち過ぎだろうか(笑)
 
 

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