6 アバンの修行(3) |
アバンの修行、三日目の早朝。 この時、アバンはブラスにわざわざ怪物がいない場所を教えてもらったり、ダイに向かって本気で戦わなければ死ぬなどと脅しをかけているが、はっきりいってこれは嘘……というか、ハッタリだろう。 ゲーム版ではドラゴラムの呪文は一度唱えた後は身も心もドラゴンになるという設定で、戦いが終わるか死亡するかまで制御不可能になるタイプの呪文だが、ドラゴンになったアバンは十分に理性を残している。 攻撃も手加減できていたし、ダイが海波斬を覚えたと見るや即座に変身を解いて人間に戻っている。つまり、ダイがこの訓練で死ぬ可能性はごく低いのだ。 だが、メラの炎とドラゴンのブレスでは、威力以上に受ける精神的プレッシャーは段違いだろう。 その怪物に対して、恐れることなく真剣に戦えるかどうか――海波斬の訓練と同時に、ダイの勇者としての資質や度胸も見定められる。 ところでこの時、アバンはもう一つの嘘をついている。周囲の動物に迷惑をかけるかもしれないという理由も、かなりのレベルで口実っぽい。もし、そこまでドラゴン化が危険かつ迷惑なものであれば、そもそも間近でのブラスやゴメちゃんの見学を許すわけがない。
が、このドラゴラムの修行に関しては、アバンはポップの参加や見学を望むどころか逆に知らせないように気を使っていたとしか思えない。 弟子のこの反応が見えていたからこそ、アバンは邪魔をされない様にわざわざ寝坊なポップが来る確率の低い早朝の時間帯(ポップは早朝訓練の際は寝過ごすか、あるいは見学はしていても眠そうにしている描写がある)、しかも目につきにくい洞窟で特訓を開始したのではないか、と推察する。 嘘とはったりを多少混ぜ、開始されたダイvsドラゴン(アバン)戦は、意外と簡単にケリがついている。 そのためアバンは口で脅していたほど本気で戦わず、威嚇程度の炎を使うをメインとしていた。 ここで注目したいのは、ダイの判断の早さと的確さだ。 その時はダイは技の概念が理解しにくかったらしく、大地斬、海波斬についても「なんとなく分かった」と発言している。 つまり、授業で技の概念や使いどころを教えるよりも、実戦形式の修行で身体に直接覚えさせた方がダイにとっては効果的だと、アバンは判断したのだろう。ガーゴイルとの戦いで海を割っていた上、日常の特訓でダイの剣の速度の上がり方を見ていたアバンの判断は正しく、ダイはたった一度のチャレンジで海波斬をものにしている。 ダイが海波斬を覚えた途端、アバンはわずかな切り傷で大騒ぎしつつ元の姿に戻っている。 ダイが技を覚えたのをちょうど見届けるタイミングでポップがやってきたのも、アバンにとっては都合がよかっただろう。ポップに邪魔をされずに特訓を終了させ、それでいてダイの飛躍的な進歩を見届けさせることができたのだから。 アバンにとっては計算通りであり、しかも最良の結果を出しているわけだからさぞや満足だっただろう。……が、前章でも言った通り、この直後に修行が打ち切られる予想外の事件が発生する――。
|