7 アバンvsハドラー戦

  

 アバンの張り巡らせた結界を強引に破り、突如として現れた魔王ハドラー。
 彼の登場により、物語は急展開を見せる。

 ダイの大冒険はRPGゲームの世界観や展開を強く意識して作られた物語だが、ゲーム序盤でいきなりラスボスが登場して勇者を倒そうとする展開など、そうそうあるものではない。

 だが、この時ハドラーが倒そうとした勇者は、アバン……彼の正体が15年前世界を救った勇者であることが判明し、事態はいきなり緊迫する。
 この時、アバンは弟子達を洞窟の外に避難させ、自分一人で戦おうとしている。

 ハドラーの放ったイオラに対して、アバンはベギラマで対抗しているが――ゲームデータ的に言えば、実はこれはかなり無茶な話である。

 DQの呪文の強さやデータはゲームによって微妙に違っているのだが、基本的にベキラマは1グループにのみ効く呪文であり、敵グループ全体に効くイオラの方が平均ダメージも大きい。
 呪文を習得するレベルも、ベキラマよりもイオラの方が上なのだ。

 当然、アバンの反撃のベキラマはハドラーに軽くいなされ、さらにはより強いベキラマでの反撃を受けることになる。
 ダイの大冒険ではゲームと違い、同じ呪文でも呪文の使い手によって威力が増すと言う独自の設定が盛り込まれているが、それが一番最初に明かされたのがこのアバンとハドラーとの戦いでのことだ。

 この時点で、ハドラーが以前よりも強くなっていること、ハドラーの背後により強大な黒幕が控えていることが明かされ、この後の戦いを物語の主軸となる魔王軍の存在が提示されている。

 ハドラーはこの戦いで、多彩な呪文の使い手であることを披露している。自ら閃熱呪文と爆烈呪文が得意というだけあって、ベキラマ、イオラ、イオナズン、それにメラを使用している。
 さらに、接近戦でもハドラーはアバンを圧倒していた。

 ハドラーの戦い方は、敵が遠い間合いにいる時は魔法で牽制的な攻撃を仕掛け、接近戦では武闘家のように肉体を使って直接攻撃を仕掛けるというものだ。この戦法自体は、後期も変わってはいない。
 高レベルの攻撃魔法を使える武闘家……敵には回したくない、嫌な相手である。

 以前より確実にパワーアップし、大きなバックも身につけている――だが、それでいてこの時のハドラーは、実に余裕がない。
 それが如実に現れているのが、ハドラーのアバンへの勧誘だ。

 DQで魔王が勇者に手を組むようにと誘うのは定番中の定番展開なのだが、この時、ハドラーには実はアバンを誘う理由がない。
 元々、ハドラーにとってはアバンは自分の野心を阻んだ仇であり、復讐の対象だ。その上、ハドラーはアバンが勇者の家庭教師をしていることまで、把握していた。

 つまりは、アバンが未だに勇者としての正義感を持っていると知っているのだ。自分の誘いにアバンが乗る確率が低いのは、承知していただろう。その上、ハドラーは人間であるアバンの力が15年前より劣っているだろうと予測していたし、初撃の魔法合戦で実際にアバンを上回っていた。

 戦力としてみるなら、ハドラーにはアバンを自分の配下に望む理由がない。
 だが、それでもハドラーはアバンを勧誘し、断られた途端、徹底して排除しようとしている。この余裕のなさは、いかにハドラーがアバンの存在を意識し、脅威を感じているかを示している。

 実際、アバンがハドラーの矮小さを指摘した際、ハドラーは逆上している。図星を指されたからこその激昂ぶりだ。
 実力的にはこの時点ではハドラーの方がアバンを戦力的に上回っていたが、精神的な駆け引きではアバンの方がハドラーの優位に立っていたと言える。

 それに元々アバンは力押しで戦うタイプではなく、持ち前の頭脳を活かして策略を駆使して戦うタイプだ。もし、ダイとの特訓直後で魔法力が消費されていなければ、アバンには他に打つ手を考えただろうし、単身であれば撤退も可能だっただろう。
 だが、アバンは自分が生き延びることよりも、二人の弟子達を守ることを最優先した。


 ダイの力の片鱗を見たハドラーが彼を恐れて殺そうとしたのを見て、アバンは捨て身でダイとポップと庇っている。そして、彼らを守るために残り少ない魔法力を使って、究極の防御呪文である鋼鉄変化呪文(アストロン)をダイ達にかけている。
 それは単に情に流されただけとは、言えない。

 アバンは目の前にいるハドラーそのものよりも、その背後にいる大魔王バーンという脅威を重視し、弟子達に真の敵を倒すようにと指示した。そのため、アバンはダイとポップに卒業の証しとしてアバンのしるしを与え、この先は自分達で修行するようにと伝えているのだ。

 その直後、アバンはハドラーに剣での勝負を挑む。魔法による戦いもそうだったが、肉弾戦でもアバンはハドラーに劣り、圧倒的に不利な状況だった。だが、アバンはわざとハドラーの攻撃を受けて相手に密着し、自己犠牲呪文(メガンテ)を唱えた。

 自分の生命と引き換えに敵に多大なダメージを与える呪文で、アバンはハドラーを道連れに壮絶な自爆を遂げる。
 アバンのとったこの戦法は、戦略面という意味では決して良いとは言えない。なにせ、この時のアバンのメガンテは力が及ばず、単なる自爆に終わっているのだから。

 だが、この戦いがダイ達に与えた影響は大きい。
 正義を貫くためになら、死も恐れずに立ち向かう姿勢をはっきりと見せることで、アバンは弟子達にこの先進むべき道を示唆した。

 それは、ダイやポップにとっては生き方や考え方にまで大きな指針となり、冒険の最後までを支える基盤となっている。

 ところで、このアバンとハドラーの戦いは、連載時の読者からの反響も大きかった回だった。

 連載終了時寸前に読者から名場面投票を募ったところ、連載初期だったはずのこのシーンがなんと6位に食い込んでいる。
 読者にさえ鮮烈な印象を与えた、屈指の名場面の一つだ。

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