08 ダイvsハドラー戦 |
アバンとハドラーの壮絶な死闘は、アバンの自己犠牲呪文という形で終わった。だが、アバンの魔法は敵に致命傷を与えるに至らず、ハドラーは生き残る。 ハドラーの頑健さがアバンの魔法に辛うじて勝っただけのことであり、戦略的には完全に負けていた。 勝ち方や過程に拘らず、勝利という結果のみを重視する この頃のハドラーの特徴は、フレイザードに通じる部分が多い。そして、目的のためには手段を選ばない点や残酷さも、共通している。 ハドラーは後顧の憂いを断つため、鋼鉄変化呪文が掛かったままのダイ達に長時間の効果を持つ火炎呪文を放とうとした。 その際、ハドラーはダイ達の恐怖を煽る様に、わざわざ自分の火炎呪文の特性を語り彼らを脅しつけている。この無意味な残酷さや感情的な部分もまた、フレイザードに譲られている部分だ。 少し話は遡るが、ハドラーは登場してきた際、アバンの弟子という理由だけでダイやポップも殺そうとしている。 アバンが実力的に自分よりも劣っていると確信したからこそ、彼の心にゆとり……慢心が生まれた。アバンの実力が恐れていたほど高くないならば、その弟子はそれ以下だと彼は考えたのだろう。ゆえに、アバンvsハドラー戦の最中、師のピンチを見兼ねて飛び込んできたダイを、ハドラーは余裕を持って見下している。 実際、ダイの攻撃を指一本で受け止め、子供が玩具でも振り回すようにダイの身体を軽々と地面に叩きつけた時はハドラーは本気ではなかった。 だが、この時、切りかかったダイが与えたわずかなダメージを重視し、ハドラーは再び気を変える。ダイはもちろん、ポップも殺しておこうという考えに固執されてしまった。そのせいで、アバンの行動目的が勝利ではなく、弟子達を守ることへと変更された。 つまり……容赦のない言い方をするのなら、ダイの行動はアバンを不利にしただけなのである。 ところで、先生を助けるためにハドラーと戦おうとしたダイもそうだが、ポップもこの前後で大きな判断ミスを犯している。 最初にアバンに洞窟の外へ逃げるようにと言われた際、完全に逃げに出る方が得策だった。できるのなら、アバンに勝ち目がまったくないと分かった段階で、ダイを連れ船で海へと逃げるのがベストだっただろう。 それができなかったとしても、せめて、ダイの暴走を防ぐために説得しておくべきだった。 ポップは何度となく暴走しがちなダイを止めてはいるが、この段階ではダイとポップの間にはまだ強固な信頼は築かれていなかった。 後のように、ポップの言葉ならば説明なしでも無条件に信じられるというほど強い信頼もなかったし、マァムやレオナが見せる様な、相手を従わせる強い意思や筋の通った正義感もない。 ダイに劣った腕力でただ抑えていただけなのだから、ダイが本気になった段階で振り払われるのは当然というものだろう。 ところで、アバンの壮絶な最後やダイの活躍に隠れて見えにくいが、ここでポップは密かに洞察力の良さを発揮している。 もっとも、その察しの良さをポップはこの時、まったく役には立てていない。アバンの覚悟を知っても尚、先生との別れを嫌って泣きじゃくるだけのポップは、自分の感情を抑えきれないただの少年の過ぎない。 それに比べると、ダイはさすがは勇者と言うべきか。 今までとは段違いの力を発揮し始めたダイの額に浮かぶ、謎の紋章……それを竜の紋章と呼び、ダイを竜の騎士かとハドラーが疑うシーンがあるが、これは後々のバラン戦への伏線になっている。 だが、この時はハドラーはダイの正体を薄々感づいていながらそれを認めず、ダイを抹殺しようとムキになっている。両手から刃物化した爪……アバンとの戦いの時でさえ出さなかった奥の手、岩さえも切り裂く地獄の爪(ヘルズ・クロー)を出して連続的にダイを襲う。 もともと初期ハドラーの戦い方は武闘家に近いので、この武器はハドラーとの相性にぴったりだ。単に殴り掛かっていた時よりも生彩のある動きで、ダイは防戦一方に追い詰められる。 浅手を負ったダイが態勢を崩したのを好機とみて、ハドラーは全魔法力を込めたイオラを放ち、ダイに勝利したと高笑う。 アバンが残した剣を掴み、アバンから習った技を叩きつけるダイの一撃は、会心の一撃と呼ぶに相応しいものだ。 だが、実際に与えられたダメージ以上にプライドを傷つけられたハドラーは、ダイへの殺意を露にしながら去っていく。
後に行われることになるダイとハドラーの決闘を思えば、実に運命的で興味深い、戦いの幕開けである。
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