09 魔王軍の情勢(1)&魔の森での戦い

 

 ダイとハドラーの初対決が済んだ後、拠点である鬼岩城に戻ったハドラーとバーンの会話により、魔王軍の組織が明らかにされている。
 ダイの大冒険の面白さの一つには、味方だけでなく敵にあたるキャラクターが非常に生き生きと描かれているという点が大きいが、その骨子は連載序盤から見受けられる。

 最初から敵の組織がきちんと組み立てられ、戦いを主眼とした物語を展開していく姿勢が打ち出されている。
 この設定は物語の中盤までの主軸となるものであり、戦いの動向を掴む上で非常に興味深いものだ。

 なにしろ、主人公の旅立ちよりも魔王軍の説明を重視して、先んじて説明しているほどの熱の入れようである。
 まず、魔王軍の最高の地位にあるのが、大魔王バーン。

 シルエットのみしか登場しない黒幕の存在は印象的であり、あれほど傲慢なハドラーでさえ礼を尽くすほどの相手として表現されることで、婉曲にその強さと存在感を示している。
 この時点では正体不明の黒幕だが、それゆえに不気味さを感じさせられる敵である。

 ところで、この時点でハドラーはダイの恐ろしさをアバン以上と感じ取り、早い段階で始末しなければならないと判断しているのだが、彼はこのことをバーンには報告していない。自分の配下の力だけでダイを始末しようと考えるのだが、このハドラーの独断思考が大きな意味を持ってくるのは物語中盤以降……ダイの正体が明らかにされてからのことだ。
 

 そして、ここでハドラーを頂点として6つの特徴的な軍団が組織されており、それぞれの軍団には軍団長が存在することが明かされている。この時点では軍団長の正体は明かされていないが、軍団ごとの特徴が明確にされているだけに、読み手としては興味をそそられるシーンでもある。

 なにしろ、ハドラーはその6軍団の全精力をあげてでもダイを抹殺すると明言しているのだ。主人公の前に立ちはだかる、強大な敵達の予告……否応にも盛り上がるというものである。

   と、敵の強大さが明らかになった頃、ダイとポップは二人っきりで冒険の旅に出たのはいいとして、いきなり迷子になったり雑魚敵に苦戦したりと、目も覆いたくなる様な低レベルっぷりを披露している(笑)

 もっとも雑魚とは言え魔の森での戦いは、ダイ、ポップ、マァムの出会いに繋がる重要なシーンでもあり、それぞれの戦い方の特徴が表れている面白さがある。

 迷子の少女がリカント(推定)とウドラー(推定)に襲われそうになっている時、真っ先に登場するのがダイだ。(この時登場する怪物は正式名称が作品上出てこなかったので、イラストから判断して推定名称で呼んでいるだけなので、間違っていたらすみません)

 ダイはこの時、少女に襲いかかろうとしたリカントを蹴り飛ばし、その後、パプニカのナイフでウドラーの枝や葉を切り落として追い払っている。
 ダイの見掛けによらぬ怪力っぷりと、切り付けの早さを印象づける登場だ。

 怪物を追い払い、泣いている少女を助けようとしたダイの背後から、早くも復活したリカントが襲いかかろうとするのだが、そのリカントを魔法で吹っ飛ばしたのがポップだ。この時ポップが使ったのは、描写から見ておそらくは閃熱呪文だろう。それも、初期のポップが使える呪文を考えれば、初級のギラといったところか。

 だが、このリカントというのが実にしぶとくて、この後、もう一度起き上がって襲いかかってくる。
 その際、魔弾銃でリカントに火炎呪文……メラを打ち込んだのがマァムだ。メラの余波で燃え上がったのがとどめとなって、さしものしぶといリカントも逃げ出していく。

 この時、マァムはポップに「詰めが甘い」と言っているが、全くその通りとしか言えまい。
 ポップもメラは使えるのだから、この時、呪文選択を間違えなければちゃんと敵を追い払えていただろう。

 ここがマァムの地元であり、怪物達の特性や弱点を熟知していたというメリットがあるのは否めないとはいえ、この時のマァムの判断力は見事だ。

 ところで、ダイ、ポップ、マァムの三人に共通しているのだが、この時の彼らの戦い方には『敵にとどめを刺す』という思考が全くない。
 ある程度ダメージを与え、追い払えばいいという思考なのだろう。

 はっきりと魔王軍に味方して戦いを挑んでくる怪物以外に対しては、ダイ達はずいぶんと寛大で、積極的に戦う気はない。
 とはいえ、手加減し過ぎて怪物を追い払えなければ本末転倒なので、この頃のダイやポップはその点でもマァムに劣っている。

 ところで、魔弾銃は初期マァムの重要な武器として扱われるが、そのせいか設定や描写がこまやかだ。
 まだマァムの姿もはっきりと出さないうちから、この魔弾銃の特徴や使い方は詳細に記されている。

 魔法を打ち出した後、マァムはまだ熱を放っている弾を即座に銃から抜き出して、そのまま腰のホルダーに戻している点に注目したい。
 この凝りに凝った描写が、実に面白い。

 少し先走った説明になるが、魔弾銃は一度に一つの弾しか打てないものの、中に詰める魔法によって多彩な効果を期待出来る特殊性がある。その特徴を活かすために、マァムは魔弾銃を常に空いた状態にしておき、いざと言う時には適した弾を素早く詰めるという方針を持っていたようだ。

 マァムのこの方針は、間違ってはいまい。
 変幻自在な融通性こそが魔弾銃の最大の長所なのだ、それを活用するためには弾込めの時間ロスを見込んだとしても、自由に弾を選べる余地を残しておいた方が有利だ。

 マァムが撃った後で即座に魔弾銃の弾を抜くという描写は、この先も随所で見られる。普通の銃と違い、予め弾を込めておくのではなく抜いておいた状態こそがベストなのだろう。

 

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