11 ダイvsクロコダイン戦 (1)

 

 状況や敵の強さに応じて、強気になったり弱気になって逃げたりと、行動が極端に違ってくるポップと比べると、ダイの思考や対処方法は至ってシンプルだ。
 悪い奴は、許さない。
 逃げられないと分かれば、戦う。

 ダイの戦いに対する発想は、基本的にこの二つである。
 現にダイは、魔の森で出会ったライオンヘッドとクロコダインの両者に対して、同じ判断をしていた。

 勇気は認めるものの、この発想ははっきり言って無謀な上に無茶である。敵と自分との実力差を計れないまま、状況変化により判断を変化させずただ無闇に戦うのではあまりにも危険が大きい。
 とは言え――ダイのこの発想は、彼の正体を考えればもっとも有効な判断とも言える。


 竜の騎士には、生まれつき身体に備わった戦いの記憶が存在する。生命の危機に追い込まれたのなら、本人が意識していなかったとしても戦いの遺伝子が発動し、その場で最も適切な戦法を選択する。一見無謀と思える背水の陣こそが、覚醒前の竜の騎士にとっては最善の戦法なのだ。

 とは言えこの頃のダイはまだ、自分の中に切り札が眠ってることを自覚はしていない。
 それなのに戦うと自分の意思で決めたダイの勇気は、称賛されて然るべきものだ。仲間のポップにいきなり見捨てられた(笑)というのに、気分を一瞬で切り換えて戦いに専念している。

 直立したワニの形態を持つ怪物……リザードマンであり、見上げるような巨漢をごつい鎧で固め、大斧を手にしたクロコダインは、見るからに力押しのパワーファイターだ。実際、クロコダイン自身も己の剛腕を自慢しており、六団長位置だと自負している。

 実際、彼の力はたいしたもので、空振りした斧が軽々と大岩を砕いている。そのくせ、動きもなかなかの素早さというから、厄介な相手ではある。
 だが、ダイはそんな相手にも憶さず、真正面からぶつかっている。……というか、ぶつかり過ぎである。

 攻撃前に技の名を叫んでから、堂々と切りかかっているのだから。
 普通の敵なら軽々と避けただろうと思える、正直すぎる程正直な攻撃だが、クロコダインはこの技を受けている。
 これは避けられないから受けた、とは到底思えない。

 クロコダインはダイの構えからダイがあの勇者アバンの弟子だと見抜き、その力を試すかのようにあえてその攻撃を受けたのだ。
 クロコダインの戦法を見ていると、彼の力は攻撃よりも防御として使われる方が有効なように思える。

 その証拠に、クロコダインはダイの大地斬の攻撃を受け止める際、腕に力を込めて手甲で受け止めている。結果、手甲は砕けてしまったものの、クロコダインの肌にはかすり傷一つつかなかった。

 挌闘技では、敵の攻撃に対して身体の力を抜いて脱力し、逆らわずにダメージを受け流す……所謂『受け身』という防御方法が一般的だが、それとは真逆に、筋肉に力を込めることで肉体を硬化させ、かえって殴った方にダメージを与えるという防御法も存在する。
 文献によると、とある古流拳法の達人は角材で殴られてもびくともせず、かえってその角材にひびを入れたという逸話すらある(昭和の時代の話)

 クロコダインが使っている防御の技は、間違いなく後者だろう。
 筋力を高めるタイプの防御方法は、相手が自分以上の力を持っている場合は全くの無意味だし、一歩タイミングを間違えればより大きなダメージを受けてしまうだけだ。

 だが、クロコダインは頑強な肉体を持っているし、多少のダメージなど物ともしない精神力も備えている。その上、自分の強靭さを見せつけるのは、相手の戦意を挫く意味がある。
 敵から見れば、攻撃を恐れない上に全く通用しない相手だと見えるだろう。

 さらに、クロコダインは単に力押しな戦士というわけではなく、意外と頭脳的な合理性も持ち合わせている。

 クロコダインの斧には真空呪文の効果が付与されていて、彼の任意でいつでも使用することができる。呪文も組み合わせて相手の動きを封じ、攻撃するのがこの時の彼の得意戦法だったようだ。

 軽量のダイに対してはこの真空呪文は特に有効で、ダイは踏ん張りきれずに吹き飛ばされ、木に叩きけられてしまっている。
 だが、ここで特筆すべきは追い詰められ、圧倒的に不利な立場になったはずのダイの落ち着きだ。

 アバンとの特訓を経て、ダイは明らかに成長している。
 偽勇者との戦いの時や、レオナを助けるための戦いと違い、この時のダイは自分の意識をしっかりと持ったままだ。

 その上で力では適わないことを悟り、スピードで勝負をかけようと決心している。素早い動きでクロコダインを攪乱し、焦れた彼が再び真空呪文を使うように仕向けたダイは、その風ごと海波斬で切り裂き、ダメージを与えている。

 この時はクロコダインはしっかりダメージを受けているので、やはり彼の防御力は本人が意図しなければ使えないものなのだろう。
 思わずよろめいたクロコダインに追撃をかけようとするダイだが、この時、彼が吐きだした焼けつく息(ヒートブレス)で痺れさせられてしまう。

 本来、この時点でダイとクロコダインの戦いの勝負はついている。
 本家本元DQのゲームでは、主人公が一人しかいない段階で麻痺を食らった場合、HPが残っていても即座に全滅扱いになる。

 身体が麻痺した時点で敵になぶり殺しにされるしかない以上、麻痺させられたという結果は敗北も同然という考えに基づいているのだろう。
 ところで、長い連載の中でクロコダインが焼けつく息の攻撃を使ったのは、この時だけだ。

 武人であるクロコダインは、この麻痺作戦をよいと思ってはいないのか。
 まあ、漫画中では明らかにされていないが、ゲームでは焼けつく息の効力はランダムでかかる時はかかるが、かからない時は単に無駄に一ターン使ってしまうだけであり、奥の手ではあっても切り札にはなりえないという理由で使わないのかもしれないが。

 この時のダイとクロコダインの戦いは、実力の差というよりは経験の差が出たと言った方が正しい気がする。
 まだ戦闘経験が少なく、真っ向から戦いがちなダイに比べ、クロコダインの方が攻撃手段に幅があり、対応が早い。

 1対1の戦いではクロコダインの勝利で終わるはずだったこの戦い……この後、飛び込んできた仲間達の助力により、戦況は一変する――。

 

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