12 ダイvsクロコダイン戦 (2)

 

 動けないながらも必死にナイフに手を伸ばそうとするダイに、とどめを刺そうとするクロコダイン……そんな状況で駆けつけてきたのが、ポップとマァムだ。
 ダイの名を呼びながら必死に駆け寄ってくるポップは、さっき逃げ出したばかりの奴とは思えないほどだが(笑)、助っ人の登場としては少々頼りない。

 と言うより、あまり適切な行動とは言い難いのだ。
 敵の前で大声を出しながら駆けつけるのなんてのは、単に敵の注意を引きつけるだけで何の意味もない。

 むしろ、こっそり近付いて不意打ちで攻撃を仕掛けた方が、はるかに手っ取り早いし効果的だ。実際に、後にヒュンケルやラーハルトなどがよくやっていた戦法である。
 だが、この時のポップにそこまでの計算高さはない。

 まあ、友達の危機を見て思わず呼び掛けてしまうのはごく普通の感覚だし、そんな一般人っぽさこそがポップの魅力とも言えるので、そう非難する程の行動でもないだろう。
 この時ポップが杖を構えたのを見て、クロコダインは真空呪文を発動させている。

 ついさっき、クロコダインはポップが自分に怯えて逃げ出したのを目撃したはずだから、脅すだけでもいいような気がするが、邪魔をされたくないという気持ちが強かったのだろうか。真空呪文を発動させてまでポップとマァムの接近を阻み、そのままダイの方へとじりじり近付いている。

 クロコダインほどの力があれば、素手でも身動きできないダイを殺すのは簡単だろうし、正しい判断だ。
 少し話が逸れるが、この時、同じ真空呪文のせいでポップは完全に吹き飛ばされて木にぶつかっているが、マァムは踏ん張って耐えている。

 ポップとマァムはほぼ同体格だし、本来なら男性の方が筋肉が発達しやすいせいで重いものなのだが。まあ、ここはマァムの体重の方が重いのではなく、体術の鍛練は彼女の方が上で足腰が強いと判断するべきだが……妙に笑いを誘うシーンである(笑)

 それはさておき、ここで特筆すべきはマァムの判断力だろう。
 ダイの様子を見て麻痺をしていると見抜いたマァムは、無言のまま魔弾銃の弾を入れ、ダイを狙っている。

 ここで、騒ぐポップを無視して説明を後回しにした辺りが、マァムの賢さというものだろう。
 マァムはこの時、キアリク(麻痺解除呪文)をダイに打つことで彼を助けようとしていたのだが、それを敵であるクロコダインの前でバラしては、元も子もない。

 マァムが無言のままで、仲間であるはずのダイに攻撃するという行為が異様だっただけに、クロコダインも手を出しあぐねて見送ってしまったのだから。
 自由になったダイは即座に武器を拾い、戦いを再開している。

 その際、マァムのサポートは的確だ。
 クロコダインの斧から放出される真空呪文が厄介なことを一目で見抜き、それを封じるために氷系呪文を使えばいいと考えている。

 打ったばかりで空になった弾をポップに渡し、氷系呪文を詰めるように指示した後、ダイとクロコダインの戦いの様子を見守っていたマァムは、絶妙のタイミングで魔弾銃を打ち出してクロコダインの斧を凍らせるのに成功している。

 武器がいきなり無効化された驚きとたまたま朝日に目が眩んだせいで、クロコダインはダイの攻撃をまともにくらってしまい、片目を失っている。
 ダメージそのものよりも、プライドを傷つけられたことに激昂したクロコダインは復讐を誓い、闘気を込めた一撃で地面に大穴を空け、そこから遁走している。

 ここで一時撤退をしたクロコダインは、正しい判断をしたといえるだろう。
 傷としては浅手だが、片目を失ってしまっては距離感が一気に狂ってしまう。クロコダインのように接近戦で威力を発揮する戦士にとっては、著しく不利だ。

 どうしてもこの場でダイを殺さなければならない状況でもないし、目を治せないにしてもある程度勘を取り戻してから再戦を挑んだ方が勝率が高い。
 あれほど激昂しつつも、感情に流されずに理性的にそう判断し、撤退を選んだクロコダインは戦士として優秀だ。

 クロコダインの撤退によって、ダイが勝利した形で終わった初戦だが、正直、この勝負は痛み分けであり、ダイの完全勝利とは言えないだろう。
 ついでに言うのなら助っ人によりダイは大いに助けられたものの、チームワークの勝利と言うのにも無理がある。

 この戦いでは、マァムの判断力が突出している。
 マァムが後方支援タイプの戦闘リーダーとして状況判断を見極め、ダイが前線を、ポップが援護を担当することで、戦いが成立しているのだ。

 もっとも、この時は三人がそれぞれ力をよせあわせて戦っているのは確かだが、まだまだ協力関係が成り立っているとはとても言えない状態だ。
 この時、ダイはマァムのサポートを考えた上で行動していたわけではない。

 正直、この時のダイは仲間達に気を配るほどの余裕はなく、ポップやマァムにほぼ注意を払っていない。ただ、ただ、攻撃のチャンスを狙い続けたダイは、敵の動きが止まった好機を逃さず、すかさず攻撃にでただけだ。
 マァムがチャンスを作ってくれると期待し、それを待っていたわけではない。

 ダイはダイで闇雲に戦い、マァムはマァムでその場の状況に応じてサポートはしているものの、彼女もこの時はダイを信頼しているとは言えない。
 この時、マァムはダイの力を知らない。

 ミーナからダイとポップに助けられた話を聞いて知っていたとしても、マァムはポップの魔法はともかく、ダイの攻撃は見てはいない。それどころか、彼が勇者だとさえ知らない状況なのだ。

 ダイがクロコダインに対して決定的な攻撃力を持っていると予測していたとも思えないし、マァムのサポートはダイの攻撃のためへの布石ではなく、クロコダインの攻撃の手を止めさせるため一手にとどまっている。

 互いに意思を共通させ、連携を取っているとまでは言えない状況だ。……ポップはポップでほぼ、何もしていなかったし(笑)

 さらに言うのならば、この段階ではマァムはポップをまるっきり信用していない。……まあ、実際にライオンヘッドに無抵抗のまま逃げまくっていた上に、この戦いでは何もしていないポップを見て、彼を信用しろというのも無理がある話なのだが(笑)

 ポップを、と言うよりは、他人を、と言った方がいいのかもしれない。マァムは魔弾銃を使って一人で周囲を守り、一人で戦うという戦闘に慣れ過ぎている。
 魔弾銃で打ち出した魔法は一直線に、目的を確実に捕らえられるというメリットはありそうだが、魔法使いの腕によっては直接攻撃してもらった方が即効性がある分、有利だ。


 実際に魔法が使える魔法使いの方が、タイミングや効力をコントロールもしやすいだろう。
 だが、この時のマァムは魔法で直接援護をもらうのではなく、弾に魔法を込めてもらうという形での援護しか、頭に浮かんでいない可能性がある。

 ネイル村の長老が魔法は使えても実戦は参加していないように、ポップも同じだと無意識に判断しているのだ。

 初対面からポップとケンカをした上、ポップがダイを見捨てて逃げたことに呆れてますます印象が低くなっているせいもあるだろうが、協力し合っているとは言いがたい状態なのに変わりない。

 しかし、三人はこの時出会ったばかりだし、この戦いは突発的なものだった。
 よせ合わせの個人プレーでも、それでも三人で協力して勝利を収めた結果は見事なものだ。チームワークの芽生えぐらいは生まれたに違いない、三人の初戦である。

 

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