18 ポップの葛藤

 

 さて、戦闘の流れを断ち切るようだが、ここでポップの葛藤について考察したい。
 ダイの大冒険の中で序盤の大きなポイントであり、物語上でポップの存在が非常に大きく認識されるきっかけになったのが、このクロコダイン戦に置けるポップの戦いへの決意だ。

 元々、戦いを嫌がっていたにも関わらず、なんとなくダイについて旅していたポップは、クロコダインがロモス城に攻め入るのを見て怯えるばかりだった。この時、同じ宿屋に泊まっていたダイ、ポップ、マァムの三人は同じ光景を目撃しているが、三人の中でポップはいち早くこれが魔王軍の総攻撃だと判断している。

 ……が、判断が速かった割には、一番行動が遅かったのもポップである(笑)
 ダイが単身飛び出した後、マァムは装備を整え、ポップや偽勇者達に向かってダイの援護へ行こうと誘っている。

 だが、この偽勇者一行ときたら全く戦う気などありはしない。
 彼らの目の前で呼び掛けたとは言うものの、マァムもこの偽勇者達は最初から当てにしていなかったらしく、彼女の説得や怒りは全てポップに向かっている。

 仲間であり、友達であるダイを助けるのは当然だと考えているマァムに対し、この時のポップの考え方は、ずいぶんと身勝手なものだ。

 ダイが友達ではあっても、それだけで彼を助けようとはこの時のポップは考えていない。自分には力がないし、底力を持つダイなら放っておいても大丈夫だからと、逃げようとしている。この時のポップは、情けないの一言に尽きる。ヘラヘラと笑い、なんとかごまかそうとしているのだから。

 そんなポップの意見を、正義感が強いマァムがはいそうですかと受け入れられるはずもない。
 真っ向からポップを非難するマァムに対し、ポップが逆ギレしているシーンに注目したい。

 まず、逃げたいという気持ちが先にあり、だが、友達を見捨てて逃げるのはよくないことだという葛藤が最初からポップの中にはあったと推察する。
 そのなによりの証拠が、マァムの指摘を受けてポップが激昂したことだ。

 最初からポップは、ダイがどうなってもいいなどとは考えていない。ダイが気になるし、出来るなら助けたいと考えているのは、これまでのポップの行動から見て明らかだ。アバンがダイに危険な修行を強いた時も、ハドラーと戦った時も、クロコダインから最初に逃げた時も、ポップがダイを心配している様子は容易に見て取れる。

 だが、ポップは『自分の出来る以上』のことは、出来ないと思い込んでいる。
 本当はダイを助けたいのに、実力が及ばない……それをよく知っているからこそごまかしたいポップにとっては、真っ向からそれを指摘されるのが一番こたえたはずだ。

 だからこそ、ポップはこの時、マァムに対して凄い勢いで反論している。
 この時にポップが口にした言い分は、本音というよりは、言い訳、もしくは自己正統化にすぎない。要するに、自分がダイを助けに行かないのは悪いことではないし、無理にそうしなければならない理由もないのだと、自分に言い聞かせ、安心したいのだ。

 だが、マァムはその言い訳をまともに受け止めている。
 良くも悪くも真っ直ぐで、言葉の裏など考えないマァムは、ポップの強がりの裏にある本音までは見ることは出来ない。マァムだけでなくダイもそうだが、正義感の強さが先に立つタイプのこの二人は、自分に出来るかどうかは度外視して、体当たりでぶつかっていく考えを持っている。

 だからこそ、マァムには最初から逃げようとするポップを理解できないし、怒りを覚えている。
 ポップに幻滅し、涙ながらにその気持ちをぶちまけて一人だけでダイを助けに行っている。

 マァムのこの反応は、ポップにかなりのショックを与えている。
 これまでポップにとって親しい人間は、彼の逃げ癖を容認してくていた。ポップの父ジャンクは、ポップの逃げ癖について文句も言っていたし、鉄拳制裁をくらわす頑固親父だが、それでも彼はポップの実父だ。

 親が子を、本心から見限るわけがない。
 師であるアバンもまた、親にも似た寛大さでポップを見守ってくれていた。今は逃げていても、いずれポップも理解してくれると心から信じているからこそ、アバンは愛弟子にあえて説教もせず、優しく見守り続けていた。

 ダイもダイで、ポップが自分を見捨てて逃げても特に怒りもせず、おおらかに受け入れている。……これでは、ポップが本気で自分の考えを改めずに甘えていたのも、無理もない。

 だが、真っ向から怒るマァムを見て、ポップは初めて、逃げてばかりいる自分に嫌悪や罪悪感を抱いた。
 ダイとマァムがいなくなった後も、ぐずぐずと宿屋に残っていたのも、その気持ちゆえだろう。

 二人が気になる、だが、どうしても踏ん切りがつけられない……そんなポップの背を押してくれたのが、偽勇者一行の魔法使い、まぞっほだ。

 彼の説得については4章34『勇気のかけらを持つ者同士』で詳しく触れているため、ここでは割愛するが、まぞっほの後押しがあったとしても、その前のマァムの叱責がなければポップの勇気は目覚めなかったのではないかと、筆者は考えている。

 甘える気持ちが強く、ともすれば楽な方向へと流されがちなポップは、きっかけや切実な動機がなければいつまでも逃げているばかりだっただろう。アバンやダイと一緒の旅ではずっとそうだった様に、まだ逃げていても大丈夫だと思い、誰か、自分よりも強い人に戦いを任せていればいい……そんな風に自分をごまかすことができた。

 だが、アバンの弟子という自分と同じ立場の女の子が、容赦なく現実を突きつけ、ポップの目を覚まさせた。
 逃げるのが許される状況ではないし、それにも関わらず逃げるだなんて最低だと叫ぶマァムが、こここそが土壇場なのだとポップに教えたのだ。

 マァムの涙ながらの怒りが、ポップに与えた影響は大きい。
 だからこそマァムの存在が特別なものとして、ポップの心に焼きついたのではないかと筆者は考えている――。

 

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