19 ダイvsクロコダイン戦 (5) |
クロコダインがまさにダイにとどめを刺そうとした瞬間に、ポップは王間に飛び込んでいる。 読者視点で見ていると分かりにくいが、この時のポップの状況判断力は見事である。 状況分析の早さだけでもたいしたものだが、なによりポップがこの状況で優先順位を正しく判断し、実行したのは特筆すべき冷静さだ。 敵となったブラスを見て、彼を助けることしか頭になくなってしまったダイや、親を慕うダイを撥ねつけることが出来ず情に流されたマァムと違い、ポップは今、最優先すべきはクロコダインとの戦いだと判断している。 その判断は、正しい。 そして、ポップはクロコダインを第一目標としながらも、ブラスの安全の確保も忘れていない。魔法で戦うと覚悟を決めながら、ブラスがその巻き添えにならないようにと考えを巡らせている。 拘束されたマァムが、クロコダインから魔法の筒を奪い、ブラスを閉じ込めなければならないと作戦を告げているが、……ポップはその作戦はまったく考慮に入れていない。 まあ、肉体能力がさしてないポップにとって、並外れた運動神経が要求されるその作戦は無茶過ぎるというものだし(なにせ、作戦立案者はダイだ(笑))、人質の安全確保に拘るところを敵に見せるのは愚の骨頂というものだ。この時、ポップはブラスに無闇にこだわる姿勢を見せず、クロコダインのプライドをつついて挑発し、人質を退げさせるのに成功させている。 口車を駆使して自分の都合のよい土俵へ相手を引き込むという、ポップの得意とする戦法がこの戦いですでに現れているのだ。 魔法使いであるポップが、魔法を使ってくると予測できて当然。しかもクロコダインの攻撃を必死で避けるだけで手一杯の上、本格的な戦いに挑むのが初めてポップには、タイミングをずらす余裕もなかった。 真正面からぶつけようとしたメラゾーマは、クロコダインの持つ真空の斧の威力の前に蹴散らされ、かえって敵の攻撃を受けてしまう。 クロコダインには、ポップの得意呪文は通じない――つまり、今のポップでは勝ち目はないということだ。だが、その事実や肉体的ダメージに諦めかけたポップは、ダイに話しかけられて立ち直っている。 余談だが、この時、ダイはポップに「逃げろ」と言っている。 勝ち目がないのなら、せめて動けるポップだけでも逃げて、助かってほしい――ダイはそう考えたようだが、ポップの考えはその全く逆だ。 どうせ魔法が効かないのなら自分が主体で戦うのではなく、ダイを主体とし、彼をサポートするための戦法に切り換えているのだ。 本来、作戦の切り換えは簡単そうでいて、難しい作業だ。特に戦場においては、一度、目標を決めてしまったら、そのまま猛進してしまう傾向が強いのだから。現に、ダイにせよマァムにせよ、ブラスを助けるためには魔法の筒しかないと思い込み、他の方法を考えることが出来なくなっている。 だが、歴史上策士と呼ばれる者ほど一つの作戦に固執せず多数の策をばらまき、臨機応変に柔軟に対応することで、戦いを支配していく。そのためには変化する現状をしっかりと見据えた上で、優先するものをしっかりと認識する必要がある。 ポップはこの時、クロコダインを倒せないのならブラスの救出を優先すべきと決めた。クロコダインと互角以上に戦えるはずのダイが、ここまで一方的にやられたのはブラスの存在がネックになっていると見抜き、彼の安全を確保さえすればいいと判断している。 そのために取った方法は、大博打というか、無茶にもほどのある戦法だ。 魔法力を温存するために自分自身が敵の攻撃を受けるのを甘受し、魔法の成功率を上げるために、アバンからもらった杖をわざと砕き、その先端の魔法石を使って魔法陣の基礎を作るなどの細工を抜かりなくしてまでマホカトールの成功率を上げているポップだが、本人の安全性は一切考慮されていない辺りがいかにも彼らしいというか、無茶な話だ。 実際、作戦は成功させたものの、ポップ自身は魔法力を使い果たして立つ力さえ失ってしまっている。 ポップがここまで無茶をする根底には、ダイへの絶対的な信頼感がある。 互いに誰よりも信頼し合い、共に戦うことの出来る親友――物語終盤まで、ずっと変わらずにあり続けるダイとポップの友情は、この戦いから始まったと言えるだろう。
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