20 ダイvsクロコダイン戦 (6) |
ポップがマホカトールを成功させたことに一番驚きを見せているのは、恐らくはザボエラだろう。さすがに魔法にかけてはスペシャリストと言うべきか、ザボエラはポップのような未熟な魔法使いが高度な破邪呪文を使ったことに驚いている。 クロコダインもポップの行動に驚きや動揺を見せているが、魔法の技術以上にポップの決意や覚悟の方に心を動かされている。 だからこそ自分が今回取った卑怯な行動を恥じ、今の自分の在り方について迷いを抱くのだが、ザボエラはここでダイではなくポップを先に殺せと唆している。……が、この判断はあまり作戦的に優れているとは言えない。この場ではダイもポップも同じように動けないままなのだ、本来の目的であるダイを殺すのを優先するのが当然だ。 それを、あえてポップを殺すことに拘ったのは、単なる私情だろう。 ……と言うよりも、この戦いでのサボエラの目的は『軍師』として活躍することだった。 途中で飛び込んできたポップを見ているにもかかわらず、その時はなんの指示も出していないのだ。 計算高いザボエラは自分の計画に拘る面があるので、それを崩されたことに苛立ちを覚えたのだろう。多少ヒステリックで八つ当たりをする傾向のあるザボエラのこと、完璧だと自負していた自分の作戦を台無しにした上、自分の駒として都合よく使うはずだったクロコダインの心を揺るがせたのが許せなかったとしか思えない。 迷うクロコダインを叱咤し、脅してまでザボエラはポップを殺そうとしている。 ザボエラのこの作戦ミスと、クロコダインのわずかな迷い……この二つが重なったことで、小さな奇跡が起きる時間が生まれた。 話がちょっと先走るが、ゴメちゃんの正体を考えれば、この時のゴメちゃんの回復の力はどうやらポップの望みを実現したと考えるのが妥当なようだ。 ダイや城の兵士、王様は気絶中、ブラスやマァムはポップの名を叫んでいたし、ポップが逃げるか、もしくは彼が助かることを望んでいた。……余談ではあるが、この時、もしゴメちゃんがポップではなくブラスかマァムの望みの方を叶えていたのなら、ダイが戦わなくてもクロコダインを倒せていた可能性もあるのではないかと思うのだが。 後にバーンが指摘した通り、ダイ達は知らなかったとはいえ、奇跡を引き出せる唯一無二の魔法道具を非常に勿体ない形で使っていたものである。 ダイの体力はここで一気に回復し、竜の紋章の光を強く放っている。怪物や魔物の視覚にダメージを与えるのみならず、悪魔の目玉を消去させているところを見ると、ニフラムに近い効果があると見ていいだろう。
怒りと、強烈なエネルギーを感じさせるダイを前にして、クロコダインは瞬時に彼に戦いを挑んでいる。 元々人質作戦を快く思っていなかったクロコダインにしてみれば、ダイにとって有効だと分かっていても手近にいたポップを人質にする作戦は思いも寄らなかったのだろう。 もし、ここでザボエラの通信が生きていたのなら、手を出せないブラスではなく瀕死のポップを人質に取れと指示しただろうが、幸いにもと言うべきか、悪魔の目玉が消えた段階でザボエラは通信手段を無くしている。 ザボエラの指示という余計な糸がなくなったせいで、クロコダインは彼本来とも言うべき豪快さで戦いに望んだ。 クロコダインとの初戦では、ダイは素早く動き回ることで斧を徹底して避けているのだが、竜の紋章の力を使っているダイはクロコダイン以上の恐るべき怪力と鉄壁の防御力を発揮している。斧の刃を砕き、その斧を掴んだままクロコダインを投げ飛ばすなんて真似までしでかしているのだ。 ところで、力を目一杯ふるっているダイの活躍に目が行くため目立たないが、ポップもこの状況で密かに活躍している。ろくに動けもしないのにマァムのところまで這っていって助け起こしているし、ダイの力について冷静に分析をしている。 物語終盤になってからポップの頭脳が高く評価されるようになるが、ポップの分析能力や状況判断力の高さは、目立っていないだけで初期から発揮されているのだ。 クロコダインが自分の最高の必殺技をダイに叩きつけようとするのを見た時も、その技の危険性を知らないはずのポップは逸早く対策を考えている。武器を持っていないダイに、近くに刺さっている剣を渡すこと それが最善手だと考えたポップだが、体力が尽きていて動けない。 だが、ここでマァムがポップに回復魔法をかけて、ダイを助けるようにと頼んでいる。これは、マァムがポップを信頼した第一歩だ。 第一印象が悪い上に、ダイを見捨てて逃げるなんて真似までしたポップを、彼女が信用出来ないのも無理もない。一緒に戦った時でさえ、マァムがポップに望んだのは魔法の弾の補給のみだった。最大によく見積もっても、完全に戦力外な協力者程度にしか認識されていなかったのだ。 だが、ポップの命懸けの頑張りが、その印象を一新させたのだろう。 実際、ポップはその信頼に見事に応えている。クロコダインの気を逸らすように派手に走って剣の所まで駆け、ダイにそれを渡している。 ダイはポップが投げた剣を受け止めると同時に、そのまま必殺技の構えへと繋げているし、ポップもまたダイが何の技を使うのか、最初から分かっていたかのように振る舞っている。 クロコダインとダイのそれぞれの最強の技のぶつかりあいは、ダイのアバンストラッシュに勝敗があがる。 自分の卑劣な行いを恥じ、ダイとポップを認める言葉を残したクロコダインは、自ら壁際へと足を運んでいる。助からぬ命と悟り、高所から飛び下りて自分で自分の始末をつけようとしているのだ。 自分の負けを認めて身を投じる際、クロコダインは雄叫びをあげている。作中では明確に説明はされていないが、恐らく百獣魔団へ攻撃中止命令をかねた叫びだったのだろう。自分の死後の部下達のことまで配慮したこの死に様は、武士の切腹にも似た潔さがある。
だが、欠点が多く見えるものの、どこか人間味を感じさせるクロコダインだからこそ、中盤以降で味方になってからの活躍の光る頼もしい仲間になれたに違いない。
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