23 ダイvsヒュンケル戦(1)

 

 ロモスからパプニカ王国から向かったダイ一行が見たものは、壊れきった無人の町並みだった。しかも、瓦礫の中から骸骨兵士(例によって、外見からの判断です)が登場する。
 町の有様やレオナの不在にショックを受けていたダイは、その怒りをぶつける様に骸骨兵士達と戦おうとしている。ダイにしては珍しく、制止しようとするポップの声も耳に入らない程、怒りに我を忘れているのだ。

 戦う気になったダイに引きずれらる形でだが、ポップも戦う気になったのか身構えている。
 このシーン、一見、前に比べれば戦う勇気を持ったポップの成長と見えるが、実際には違う。この場は、『逃げる』のが正解だ。

 なぜなら敵はアンデッド系……思考能力もなく、また、単に倒しただけでは殺せない不死の怪物だ。そんな連中と戦ったところで、無駄に体力を消耗するだけで得られる物はない。まだ、周囲に人がいるなら彼らを守るために倒す意味もあるが、完全に無人ならばその必要もあるまい。

 この場はいったん逃げ、骸骨兵士達ではなくそれを操る者を探すなり、生き残りの人間を探して状況を把握する方が利口だ。

 だが、ダイは怒りから、そしておそらくマァムは正義感から戦いを決意した意向に従う様に、ポップもまた戦いに参加しようとしている。この時点では、ポップの判断力はまだまだ甘いのだ。

 しかし戦おうとした瞬間、遠間から剣撃を飛ばしてきて骸骨兵士を一掃した剣士が現れる。
 ヒュンケルの初登場である。

 ダイは、ヒュンケルの攻撃がアバン流刀殺法の大地斬だと見抜き、彼を味方と判断する。それを聞いたマァムもまた、アバンの弟子……即ちアバンの使徒であり、自分達の仲間であると認識する。だが、この段階でポップだけはヒュンケルへの警戒心を持っている。

 ダイやマァムが親しげにヒュンケルに話しかけ、多少無愛想とは言え彼がそれに応じているのも聞き、武器もいったん納めているのに、ポップはヒュンケルへの警戒を捨てていない。ダイやマァムがヒュンケルを仲間として受け入れようとしているのに、ポップだけは彼への不信を隠そうともしないのだ。

 ポップのこの態度に対してダイやマァムは批判気味だが、客観的に判断するならポップの態度はともかく、考え方や警戒の方向性は悪くない。むしろ、妥当なものだろう。
 この時、ポップはヒュンケルに不信感を抱いた。
 その判断は、決して間違っていない。

 敵地で会った敵か味方かさえ分からない相手を、同じ師匠に師事した経歴を持つと言うだけで全面的に信じるのは、いささか危険と言うものだ。うかつに仲間だと信じて引き入れ、油断したところで寝首を掻かれては目も当てられない。

 相手が信用できる相手かどうか……それを見抜くためには、相手の反応を確かめる必要がある。
 相手に対する不信感を最初にぶつけ、反応を見るというのも一つの方法だ。

 だが、非常に残念なことにこの頃のポップは、自分の根拠や考えをきちんとした言葉としてまとめ、仲間に説明して納得させるという作業ができていない。ポップの分析力は初期からかなり高く、内面で色々と考えているモノローグは多いのだが、ポップ自身はそれをいちいち言葉にして仲間達に言ったりはしていないことが多い。

 これではポップの意外な思慮深さや判断の確かさは、なかなか伝わるまい。特に、シンプル思考で素直なダイやマァムは、ポップの言葉をそのままの意味で受け取るからなおさらだ。

 たとえばポップはヒュンケルを、『なんとなく悪党っぽい顔をしている』と表現している。
 この言い方では、単にポップが感情的にケチをつけているだけにしか聞こえまい。だが、ポップがこの時に感じた不安や不信感を理論立て、伝えていたらどうだっただろうか。

 1つめは、表情への疑問だ。顔立ちそのものではなく、他人を助けても笑顔の一つも見せず、じっとダイ達を見下ろしているヒュンケルの態度は、無愛想と言うだけでは説明のつかない不信感がある。

 2つめは、武器への警戒だ。武器屋の息子のせいかあるいはアバンの教育の成果か、ポップはヒュンケルの武器の凄さを認めながらも、物騒過ぎる雰囲気を感じ取り不安を抱いている。

 3つめは、ヒュンケルの受け答えの仕方だ。ダイとマァムが親しげに話しかけているから目立ちにくいが、ヒュンケルは後輩に当たるダイ達、そして恩師であるアバンの無事や安否を全く気にしてはいない。

 以上、3つの理由からヒュンケルを敵、もしくは信用できないと考えたポップは、まずはアバンの弟子というのが本当かどうか確かめようと、アバンのしるしを見せる様にと要求している。

 そのペンダントが本物だと認めたのはポップ自身なのだが、それでも不信感を拭いきれていない。すでにヒュンケルを仲間と認め、一緒に戦ってくれるように頼むダイや、もう完全に仲間として扱っているマァムの後ろで、どうにも納得できない様子で彼を睨みつけている。

 ポップとしてはまだ疑惑を晴らせないが、二人が完全にヒュンケルを信頼しているし証拠を示された以上、それでも信用できないと主張もできないと言ったところだろうか。

 実際、ヒュンケルは明確な敵……それも魔王軍六団長の一人、不死騎団長なのだからポップのこの疑惑は大正解だったりするのだが、感情豊かなポップの場合、推理に基づいてヒュンケルの正体に気がついたというよりは、単に子供じみた反発から感情的に反感を抱いているだけのように見えるところが面白い。

 そのせいでダイやマァムはポップの不満を単に彼の気紛れか我が儘ととらえたのか気にしていないし、疑いをぶつけられたヒュンケルも自分の正体を見抜いたポップを重視していない。

 ポップは終盤になってから、ようやくその頭脳を高く評価される様になるキャラクターだが、頭脳に関して言うのなら後期になってから成長したのではなく、初期から持っていた資質――そう思えてならない。

 

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