25 ダイvsヒュンケル戦(3)

 

 ヒュンケルの合図により、さっきヒュンケル自身に砕かれたはずの骸骨兵士達が復活したところから、ダイ達の戦いは始まる。
 突然の敵の攻撃にダイは咄嗟に盾で相手の剣を受け止め、そのまま盾で相手を払いのけて態勢を崩し、剣で切りつけている。

 余談ながらダイが盾を装備したのはこのヒュンケル戦でのごく一部でだけなので、盾を織り交ぜた攻防を見れるのはこの戦いだけである。
 ついでに珍しいシーンとして、ポップが手にした杖で骸骨兵士の頭を打ち砕くというシーンもある。

 ポップが直接攻撃をしかけるシーンもごく少ないので、雑魚戦とは言えこのバトルはなかなかに珍しいシーン満載である。
 ポップはこの時、骸骨兵士の頭をきっちりと狙って砕き相手を一度倒しているものの、相手はすぐに立ち上がっている。

 元々、骸骨兵士は致命的なダメージを受けない限り起き上がる特質を持っているとは言え、ダイやヒュンケルに比べると明らかに復活が早い。つまり、ポップの腕力によるダメージの軽さを表しているシーンだ。

 迫ってくる骸骨に対して積極的に戦うダイとポップに対し、マァムはこの時、まだヒュンケルを説得する希望を捨てていない。
 マァムはこの時、アバンがハドラーに殺されたことを知らないのかと、ヒュンケルに呼びかけている。

 あれだけはっきりとヒュンケルがアバンへの憎しみを口にしたのにも関わらず、マァムは彼がアバンの死を知らないからこそ利用されている可能性を考えていた様だ。つまり、マァムはヒュンケルに悪意を抱いていないし、彼を信じたいと言うスタンスを持っていると言える。

 だが、ヒュンケルはその事実を知っていたし、アバンやアバンの弟子への侮蔑と共に両者への殺意をちらつかせている。
 その発言に怒ったのは、ダイだ。

 大地斬で骸骨兵士達4体を一刀両断し、『先生を殺すつもりだった』という言葉に過剰に反応して、取り消せと怒っている。
 アバンの死をその目で見て、責任を感じているダイにとっては聞き捨てならない言葉だったのだろう。

 だが、ヒュンケルにとってはダイの見せた大地斬の方がよほど見逃せないものだった。この後、ヒュンケルはダイに挑発を仕掛け、わざと彼の攻撃を受けている。自分の実力がダイ……アバンの弟子以上だとはっきりさせたいとばかりに、ダイが技を使うのを待ってからそれ以上の自分の技量を見せつけている。

 体格も年齢も明らかに上であり、力でも技でもダイよりも上回っているヒュンケルに追い詰められたダイは切り札であるアバンストラッシュを放つが、同じ技で相殺されてしまう。

 この時、ヒュンケルはダイの技が未完成であり、アバン流刀殺法の最大の奥義とも言うべき空裂斬の未習得を見抜き、指摘している。アバンに剣を習ってからずいぶん経っているのに、即座にそれを見抜ける当たり、ヒュンケルのアバンの技に対する拘りや執着心が見て取れる。

 ヒュンケル自身も空裂斬は使えないという点はダイと同じなのだが、未完成のアバンストラッシュとは言えヒュンケルのそれはダイよりもダメージは上だ。ヒュンケルの放ったアバンストラッシュを盾で受け止めようとしたダイはその盾を壊され、そのまま壁に叩きつけられるほどのダメージを受けている。

 ダイの劣勢にポップとマァムが参戦の意思を見せると同時に、ヒュンケルは鎧の魔剣を発動させている。『鎧化(アムド)』の言葉で剣の鞘から、鎧へと変形する武器――ダイの大冒険に数多く登場するアイテムの中でも、屈指の格好よさを誇る武具シリーズの初登場である!

 この時、ヒュンケルはこの鎧を『あらゆる攻撃呪文を弾き返す最強の鎧』と表現している。

 それに対抗するため、ポップとマァムは魔法と魔弾銃で同時にメラミを放っているが、見事に直撃したのにヒュンケルは何のダメージも受けなかった。炎系が効かないのならと、今度はポップは閃熱呪文を打っている。

 メラは直接炎をぶつけて相手にダメージを与える呪文だが、ギラは炎そのものではなく熱エネルギー、言わば高熱波を相手にぶつける呪文だ。ギラの熱波で鎧ごしにダメージを与えられるのではないかと考えて攻撃だったのだろう。

 だが、これはヒュンケルの掌で防がれ、それどころかダメージをそのまま弾き返されてしまっている。
 後にギラの上位呪文ベキラマでも見られる描写だが、ギラは直線的な熱エネルギーであるためその放射は相手にとっても受け止めやすく、また反撃しやすいものでもあるようだ。
 ヒュンケルは魔法は一切使えないため、ポップは自分自身の魔法のエネルギーの反射をそのまま受けて、ブっ飛んでしまったことになる。

 ダイとポップを倒したヒュンケルは、まだ説得しようとするマァムに答える形でアバンのしるしを投げ捨て、アバンが父の仇である事実や憎しみを語っている。ヒュンケル本人は意識していないだろうが、それは懺悔に等しい。

 彼は自分の憎しみが正当なものであり、アバンを倒そうとする行為を正しいと思うことで救われたがっている。この場ではマァムが絶好の聞き手となっているが、もし彼女がいなかったとしてもヒュンケルは自分の過去や復讐心を打ち明けていただろう。

 アバンに対してもそうだった様に、ヒュンケルは自分の憎しみをぶつけ、理解されることを望んでいた。
 長い間心の奥底に押し込め、鬱屈していた感情をぶつけることで開放されたいと望んでいたのだろう。

 もし、ヒュンケルに冷静さがあれば、自分の内部の弱さをそのまま他人にぶつけることの愚かさに気がついたはずだ。

 ハドラーの配下の魔物である地獄の騎士バルトスに拾われ育てられたヒュンケルにとっては、魔王を倒した勇者こそが仇だと……その話にダイやマァムは同情し、強く心を動かされていた。相手の同情を引くような話を長々とした後、問答無用で技を叩き込むなど彼の本来の戦法とはかけ離れている。

 だが、アバンへの拘りを持ち続けたヒュンケルには、アバンの弟子とアバンを同一視し、憎しみをぶつけることだけに夢中になっている。

 ここでヒュンケルはダイに、アバンに向かって放つつもりで磨き続けていた技、ブラッディスクライドをぶつけている。ポップが咄嗟にダイを庇って直撃を避けたものの、それでも二人とも大きなダメージを受けてしまった。

 それでも満足しきれないヒュンケルは、この技でアバンに返り討ちに遭い、決別となった出来事をマァムに語っている。
 復讐に囚われているヒュンケルは気がついていないが、誰にも打ち明けられなかった自分の内心を他者に対して吐露するのは、心の救済のための第一歩だ。

 相手を殺そうと望み、しかし同時に、その相手に理解されたいと深く望む。
 矛盾した葛藤を抱え込んだヒュンケルは、無意識だろうがダイを……言い換えればアバンを殺す以外の選択肢も求めていたのだろう。

 

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