27 ダイvsヒュンケル戦(5) |
マァムが気絶した後、再び戦いを仕掛けるのはダイだ。 後には竜の騎士の記憶も使いこなして複雑な戦闘や防御もこなせるようになるダイだが、この頃のダイは等寸大の少年として強敵と戦おうとしている。ヒュンケルの兜の目の当りの隙間に目をつけ、そこならば魔法が通じるかもしれないと考えている。 ダイのこの狙い自体は、悪くはない。 だが、ダイもまたマァムと同じ失敗をしてしまっている。自分一人で戦うことだけを考えて、不向きなことまで自分でやろうとしているのだ。 力技でやっと炎をぶんなげるダイよりも遥かにうまく、狙い目へとピンポイントな攻撃を仕掛けられるだろう。この時点でマァムは完全に気絶しているとはいえ、ポップはすぐ隣にいたのだ。 ここはポップに火炎呪文で攻撃してもらい、その隙にダイ本人は剣で攻撃を仕掛ける方が有効だった。 ……まあ、連携する気があったとしても、ポップはダイ以上にダメージを受けていて終止立てないままだったので、魔法を放つ余力があったかどうか、怪しい気はするが。 ダイが一生懸命考えた果敢な挑戦は、あっさりと外れている。……というか、ダイ自身は「かわされた」と言っているものの、漫画で見る限りヒュンケルは驚きのせいで棒立ちになっていて動いた様子はない。ダイの狙いが最初からずれてしまったのか、それともヒュンケルがほんのわずか動くことで躱したのか、議論の余地はありそうだ。 個人的には『外れた』に一票を投じたい。 意図的に躱したのであれば、最初と二度目のヒュンケルの態度の落差が説明できない。
それに最初に気がついたのは、ポップだ。 だが、このアドバイスは全く役に立たなかった。 そんな相手に対して怒りの感情を掻き立てようとしても、うまくいかないのは当然だろう。 だが、だからと言ってダイは、この時はヒュンケルを『助けるべき仲間』とまでは認識してはいない。ヒュンケルが同情に値する相手であり、また、無関係な敵ではなくアバンに師事したという共通項を持っていると知っても、ダイにとってヒュンケルは目の前に立ちはだかった敵だ。 同情したとはいえ、マァムのように同情を感じた相手を救いたいとまでは思っていないから、彼の考えを変えるために説得をしようとはしない。 ある意味で、これはダイの成長の第一歩と言っていいだろう。これまで、ダイは『勇者になりたい』という漠然とした憧れの元、行動してきた。大切な友達を守りたいとか、悪党を許せないと思う気持ちの根源も、要はそこにある。 だが、その割にはダイは『正義』に対して、明確な定義を持ってはいない。 『正義』と言うものは、人によって答えは違う。 また、一度答えをだしたとしても、それは決して不変のものではない。年齢や出会った出来事によって大きく考えが左右され、常に答えが変わり続けると言っていい。 この時もダイは、初めて『正義とは何か』と言う問題にぶつかったものの、答えをすぐに出せずに迷うばかりだった。その迷いは成長には欠かせないものではあるのだが、しかし、実戦の中で、と言うのはいかにも場が悪すぎる。 迷いを持つダイは、ヒュンケルの放った金縛りの術……闘魔傀儡掌にあっさりとかかってしまう。暗黒闘気によって手から見えない糸を出し、相手を操ることができる技である。操る、というよりも、相手の動きを封じるという意味合いが強いようだが、剣を取り落とさせ無抵抗な状態を強制できるのだから、恐るべき技ではある。 しかも、片手でこの技を仕掛けながら、もう片手で決め技を放つ力がヒュンケルにはある。 ダイがこの技にかかった段階で、ダイ達は完全敗北したも同然だ。なにしろ、ダイは抵抗不能、マァムは気絶、ポップはダメージ大で立つもしないのできないのだから。 ヒュンケルの方に武器の有利さがあったのは否めないが、ダイ達の敗北の最大の要因は意志の不統一に加え、連携の悪さにあったように思える。そもそも戦うかどうかという決意すら、ダイ達の中ではバラバラだった。 それに比べ、復讐に燃えるヒュンケルの意志は、最初から最後まで揺るぎのないものだった。その辺の差が、この初戦にでたように思える。
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