29 ダイとポップの修行

 

 ガルーダに運ばれたダイとポップは、パプニカ城の兵士だったというバダックと言う老人に助けられ、レオナの生存を知らされる。
 だが、レオナの行方は分からないのは変わりはないし、ダイは自分の境遇とヒュンケルのそれを重ねてしまうせいか、彼への同情をどうしても振り切れず戦闘意欲が薄い。

 どうにも八方塞がりなこの状態で、ポップがやけにやる気を出しているのが面白い。
 後半になればなるほど際立つが、ポップは逆境に極めて強いタイプだ。特に、自分がやらなければならないと感じた時のポップの奮闘ぶりは、目を見張るものがある。

 マァムを助けたい――その明確な目的がある分、この時のポップはいつになく積極的だ。意気消沈しているだけのダイを叱咤激励し、ポップはヒュンケルとの対決を前提にした上でマァム救出の作戦を考えている。
 ここでポップがあげた作戦が、ダイとポップの共同による魔法攻撃だ。

 ポップが初級天候呪文で雨雲を呼び、ダイが勇者のみが使えるという電撃呪文でヒュンケルに魔法攻撃を仕掛ける。
 ポップのこの作戦には、ダイの紋章の力は想定されていない。

 ヒュンケルとの初戦では、ポップはダイに紋章の力を出すようにとアドバイスをしていたが、それが無理のある要求だと悟ったせいだろう。紋章の力は確かにダイの中にあり、怒りの感情と連動しているのは確実だが、ダイも意図的に使いこなせる力ではない。そもそも感情というもの自体が、制御しきれるものではないのだから。

 ならば最初から不確定要素の高い奇跡を計算に入れないで、相手の戦力や特徴を冷静に見極め、今の自分達の力でできる最善の作戦を考える――このポップの現実的な感覚は、称賛に値する。

 もし、ポップがダイに頼る気持ちが強いのであれば、ダイの潜在能力に頼る形……空裂斬を習得させる方法を押しただろう。逆に、ポップ自身がやり遂げたいと言う気持ちや自惚れが強ければ、自分の魔法をメインにおいた戦いを計画したに違いない。

 しかし、ポップは自分とダイ、そして敵であるヒュンケルの実力を比較して考えた上で、今、現在の戦力内でベストと思える作戦を立てた。
 これは、簡単そうなようでいてそうそうできることではない。

 希望的観測を想定に入れた作戦というのは外れた場合のリスクが大きすぎるが、苦しい時ほど幸運に縋り、神頼みをしたくなるのが人間と言うものだ。ましてや、ポップはダイの力を何度も目の当たりにしている。

 だが、クロコダイン戦を経てポップは明らかに成長した。
 ダイに頼り、任せっきりにするのではなく、自分自身も戦おうとする精神が芽生えたのだ。

 ダイが爆発的な力を秘めているのを知っていてもそれに頼ろうとしない精神に加え、現実をしっかりと見つめる判断力  軍師としての彼の才能を感じさせる作戦だ。
 ポップはこの作戦をダイやバダックに説明しているが、その説明は具体的で分かりやすいものであり、あまり乗り気でなかったダイを見事に説得し、その気にさせている。

 ダイ大に登場するキャラクターの中ではバーンやレオナなど、指導者的立場にいる者の弁論術や説得力が際立っているが、ポップもなかなかのものである。
 その後の実際の特訓で、ポップは半日近くも初級天候呪文の維持に勤め、ダイの電撃呪文の命中率を上げる特訓に付き合っている。

 ダイの大冒険の連載の中で、ポップがダイに修行をつけるシーンは実はここしかないので、実に貴重な光景である。ポップが兄弟子の自覚を持ってダイの面倒を見ることを望んでいたアバンが見たのなら、さぞや喜んだであろう光景だ。

 ところで、意外にもポップは教育者としてはスパルタ式である。
 アバンがダイを褒めて伸ばそうとしたのとは対照的に、ポップは結構厳しい。魔法が苦手なダイが電撃呪文に成功したと大喜びしているところを、補助がある以上できて当たり前だと厳しく叱り、命中率を上げろと叱責して繰り返させている。

 褒めるよりも毒舌気味に叱ることで欠点を自覚させ、短時間で鍛えようとする――この方針は、師匠になるマトリフと同じものだ。……もしくは、ポップの実父であるジャンクに近いと言うべきか(笑) まあ、短い時間で他人を教育したいと思うのなら、これが一番手っ取り早くて的確な方法だ。

 それに、この時、ポップは天候呪文を維持するためにずっと魔法を使い続けているのだから、ポップ自身の訓練にもなっている。
 マァムへの心配もあるし、ポップの余裕のなさも無理はないのかもしれない。

 だが、厳しい兄弟子の一面を見せるポップは、ダイが自在に電撃呪文を使えるようになった時、ちゃんと褒めている。もっとも、その直後、二人とも力を使い果たして倒れ込んでしまっていたから、ポップの修行は容赦と言うものがない。

 二人そろって力を使い果たした段階で敵に遭遇する危険性などもまったく考えてもいない辺り、あまり教師には向いていないかもしれない。他人を導き育てるよりも、まだまだ自分自身の成長に力を注ぐ方がポップにとっては重要なのだろう。

 だが、この特訓はダイとポップの力を底上げし、自信を強めただけではなく、二人の間の絆を強めている。
 ダイとポップが、互いの存在を相棒と認めた第一歩だ。

 

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