37 パプニカ残党の奮闘(1)

 

 対ヒュンケル戦の後、ダイ達はついにパプニカ王国の残党と連絡を取るのに成功している。
 もっとも、これはかなり幸運が味方したとしか言い様がない。

 火薬玉で連絡を取ろうと考えたバダックの考えは真っ当なものだが、そのためにダイがやったことというのが物凄かった。
 自分の力を試してみたくて張り切っているダイは、火薬玉がある地下倉庫の上に乗った瓦礫を吹き飛ばすため、火炎大地斬の技をしかけている。

 無意識で行っていたことを、意識的に行えるように訓練する  ダイの特訓では稀に出てくるシーンだが、これはとても面白い修行方法だ。普通は訓練を重ねて、今までできなかったことを意識的にできるように鍛えていくものだ。

 だが、ダイの場合は『正体不明の力』があり、無意識状態の方が遥かに強い。
 ダイはそんな自分に対してあまり深く考えていない様子ではあるが、それでも全く何も考えてないと分かるシーンでもある。

 ダイは無意識ではなく、意識的に力を使えるようになりたいと考えている。
 その向上心も、意識のある状態で試して一度目で成功させた腕も見事な物だが、ダイは肝心なところというか、基本的な部分で抜けている。なにせ『火薬』が置かれている場所に、火力を伴った攻撃を仕掛けたのだ。

 当然のように火薬は全部吹き飛び、信号は意味を成さない目茶苦茶なものになってしまった。
 それに対し、ポップとマァムの意見が全く正反対だ。

 マァムはダイを慰めるためもあるだろうが、曲がりなりにも信号はあがったのだから連絡はついたのではないか、と考えている。だがポップは全く逆で、信号を見てとしても怪しんで警戒するのではないか、と判断している。

 これは、おそらくポップ方が正解だ。
 戦場では連絡や通信は、非常に重大だ。情報や連絡をミスったばかりに戦いの趨勢が大きく変わるなど、歴史上良くある話だ。だからこそ細かいまでにマニュアル化され、それに反する通信は切り捨てるぐらいの対応は取って当たり前とも言える。

 実際、一応は現役のパプニカ兵士であるバダックも、口にこそ出さないもののポップも全く同意見らしく、ムスッとして黙り込んでしまっている。なにせ味方に連絡を取れなかった上、自分達の居場所を敵に広く宣伝するような行動を取ってしまったのである。

 もしかしたら反応があるかもしれないと考えたせいか、ダイ達は一応この場にとどまり続けているが、はっきりいってそれだけでも危険な話だ。
 だが、ダイ達のその無防備さが、偶然、いい方向に働いている。

 気球船でやってきた三賢者の一人エイミは、そのおかげでダイ達の中にバダックがいるのを発見した。
 これはエイミにとってもダイ達にとっても、ひどく幸運だったと言える。

 バダックが彼女の身分を保障したからこそ、ダイ達もすんなりと彼女を信頼できた。まあ、人を疑うことがないダイやマァム、それに美人には滅法弱いポップがこの場合、エイミを疑う理由はないのだが(笑)、エイミとってはバダックの存在はひどく大きい。

 確実な知り合いがいなければ、エイミとて警戒してそうそう気球船を降ろしはこなかっただろう。
 この時、エイミが直接動いているのは行動的な彼女の性格のせいもあるだろうが、なによりパプニカの苦境が垣間見える。

 なにしろ、この時、パプニカは事実上滅亡してる。
 王女レオナこそは生存しているものの王は死亡し、前にいたはずの司祭テムジンや賢者バロンも見当たらなくなった今、三賢者のエイミは王国の幹部の一人であり、かなりの重鎮と思っていい。

 そんな人間が最前線で動かなければならない程、この時のパプニカには余裕がない。
 本来なら幹部が迂闊に動くよりも信号弾で連絡を放った方がよほど安全なのに、そうできるだけの余裕も時間もないのだろう。

 直接、しかもすぐに確かめに来た辺りに、味方や生き残りを探そうとする切実さが感じられる。

 バダックがいたことも幸運だったが、エイミ達がレオナからダイの話を常に聞いていたこと、そしてダイがレオナからもらったパプニカのナイフを持っていたことも、実に幸運だった。

 そのおかげでエイミはダイを全面的に信頼できると決断を下し、彼をレオナのいる場所へ案内している。
 双方の信頼がすんなりと築けたおかげでスムーズに物事が運んだからこそ、彼らはレオナのピンチに間に合うことができたのだから――。


《蛇足なおまけ♪》

 ところで本編からは大きく外れる考察になるが、この先触れることはなさそうだから気球船について触れておきたい。
 原作を見れば一目瞭然なのだが、正式名称は『気球船』だ。

 描かれているイラストから判断すると、火を点すバーナーに籠にバラスト(重り)が用意された形式やサイズから見て、大型の熱気球そっくりに見える。だが、この気球船は能力的には飛行船に近いものがあるらしく、かなりの人数を一度に乗せることができる上、推進力や機動性もある。

 だが、飛行船と違ってかなり小型であるこの気球船は、小回りが利く上に離着陸も楽という素晴らしい利点に恵まれた乗り物である。
 まさに熱気球と飛行船の長所だけをいいとこどりをした、夢の乗り物と言えるだろう。


 なにせ、本来、熱気球には望んだ方向に飛んでいく能力など一切ない。
 基本、熱した空気の浮力で上下するだけの代物なのだ。どうしても水平方向に行きたいというのであれば、風任せにするしかないという大博打な乗り物だったりするのである(笑)

 で、飛行船は大きいだけに離着陸にやたらと時間と人手が掛かるという欠点があり、決められたところ以外に着陸できるようにはできていないのだ。
 だが、現実ではあり得ないことを易々と可能にできるのが、ファンタジー世界の素晴らしさと言うべきか。

 ダイ大世界では熱気球ではなく気球船と表現することで本来の意味から離れ、自由に飛べる翼を手に入れているのである。

 

38に進む
36に戻る
七章目次2に戻る
解析目次に戻る

inserted by FC2 system