40 ダイvsフレイザード(1) |
レオナの絶体絶命の危機を救ったのは、飛んで来た一本のナイフ――それは、レオナがダイに送ったパプニカのナイフだった。 投げたナイフはフレイザードの槍を砕き、その上で彼の腕に突き刺さっている。ダイのコントロール力の高さを証明するエピソードだ。しかし、物理的にこれ程見事に的に当てることができるのに、ダイは魔法を相手にぶつけるのはとことん苦手にしているのだから、向き不向きというのは本当に大きい様だ。 だが、ダイの凄さは自分の欠点を理解し、それさえも利用できる柔軟性があるところだ。 危険度は高まるが、自分の魔法のコントロールならばその方が確実だと考えたのだろう。 この戦いでは、ダイの判断力や対応の見事さが際立っている。 そしてダイにとって幸いだったのは、フレイザードが突然乱入してきた敵に対する怒りのせいで暴走気味の反応を見せたことだ。 以前も述べた様に、フレイザードは残虐性と冷酷さを合わせ持った特質を持っており、時としてひどく計算高くなる。だが、戦いに夢中になると攻撃性の高さが仇になるのか、暴走気味になりやすいようだ。 フレイザードの本来の任務はレオナの抹殺なのだから、ダイの挑発に取り合わずに彼女を殺すか、さもなければ人質にとるのがこの場合は最善手だっただろう。だが、ダイに腹を立てたフレイザードはレオナをそっちのけで戦いに没頭している。 だが、フレイザードが怒りに目が眩んでいるのか、攻撃の間合いを計り損ねている。ダイに避けられ、背後の柱を殴ってしまっている辺りなど、周囲が目に入っていないとしか思えない。逆にダイはこの戦いではずいぶんと冷静だ。 動きの止まったフレイザードの腕に切りかかっているが、その際、ダイは燃えている左腕に攻撃している。 ナイフで氷の腕に攻撃をしかけ、手にした剣で炎の腕に切りかかることで、ダイは相手の身体の強度や特質を掴んだ。フレイザードが攻撃の息を仕掛けると同時に即座に避けて彼から離れた辺りからも、相手にダメージを与えるための渾身の攻撃というより、相手の出方や強度を窺うための牽制の攻撃という印象を受ける。 ダイの素早い身のこなしを見たフレイザードは、氷系最強呪文(マヒャド)を仕掛けている。離れた場所からでもダメージを与えられる呪文であり、しかも広範囲に効く上に相手を凍り付かせて動きを鈍らせる効果がある呪文だ。 だが、ダイは魔法剣を生み出してこの吹雪に対抗し、火炎大地斬でフレイザードの氷の腕に切り付ける。 普通に切っただけでは効果がなくても、火炎魔法と大地斬の威力を付加させればダメージは与えられると考えたダイの読みは見事に当たり、フレイザードは大ダメージを受ける。 手の平から手首までが割れ、しかも炎で燃えだしたせいで氷の腕が溶け始めるというダメージは並の人間ならば戦い続行不可能に近い重傷だが、この時のフレイザードの対処は凄い。 燃える腕のダメージをこれ以上受けない様にと、自ら自分で自分の腕を切り落としている。先の話になるが、後にハドラーによって生み出される分身体のヒムもまた、同じ行動を取っている。 たとえ自分の身体だろうと不要な物は切り捨て、勝利を狙う執念……フレイザードもハドラーの持つ勝利への執念を受け継いでいるのがはっきりと分かる。 ダイへの苛立ちから彼を軽んじて見ていたフレイザードだが、ここで彼はダイの実力をきちんと評価し、考えを改めている。 力押しのバトルの際には狂気じみた熱狂性を前面に出して敵を圧倒し、自分が不利になったと見れば慎重なまでの計算で徹底した勝利を狙ってくる。戦況によって思考パターンを変えてくる敵は一筋縄ではいかない分、かなり厄介だ。 ところでダイとフレイザードに気を取られ観戦しているだけになったレオナは、この時完全に一人の少女に戻ってしまっている。 ダイがレオナを助けようとはしてても、彼女へ一言も話しかけていないように、まず、ここは戦いに専念すべき場だ。優先順位を明確にして、冷静に行動すべきである。
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