41 ダイvsフレイザード(2)

 

 ダイがまずフレイザードに一撃を決めた後、ダイよりも一歩遅れて、マァム、ポップ、エイミも参戦してくる。
 この時、ダイは回復魔法を使えるマァムとエイミに怪我人を助ける様、素早く指示を飛ばしている。

 ダイには珍しくリーダーシップを発揮するシーンだが、この指示は見事だ。この場で戦況を一番理解しているのはダイだけだし、マァムはともかくとして実戦にはいかにも不慣れなエイミに対してこの指示は非常に有効だった。

 物語の中では人間達の位置が『勇者を軸に、パプニカ王国を中心とした有志隊』という形で結成された軍となったためか、判断力と指揮力が高く、なおかつ王女という地位を持つレオナがリーダーシップを握ることが多かったが、ダイ本人のリーダーリップもなかなかのものだと思わせるエピソードである。

 ところで、ダイがしっかりしているこの戦いでは、ポップの方はずいぶんと気を抜いている印象がある。
 相手がヒュンケルとの戦いで見掛けた敵だとすぐ気がついたものの、ダイが優勢っぽいのを見とった途端、気楽に軽口を叩いている。

 ポップ自身は回復能力はないとはいえ、怪我人の救出を優先するでなくダイの側で待機しているだけであり、これといって強い目的意識を感じさせない立ち位置だ。
 ポップは不利な状況や逆境に追い込まれると粘り強さを発揮するが、逆に有利な状況だと油断したり調子に乗って失敗する傾向があるが、その点が良く現れているシーンだ。

 それとは真逆に、フレイザードはこの時にはっきりと方針や目的を定めている。
 レオナ抹殺をあっさりと切り捨て、フレイザードはダイの首を取ることを最優先にしている。腕を再生させたフレイザードは、氷炎爆花散と言う技を放って四方八方に大ダメージを与えている。

 この技の寸前、ダイはフレイザードが何かを仕掛けるのを察知してみんなに伏せる様にと指示を飛ばしているが、残念ながらこれは間に合わなかった。
 最初から倒れていたレオナ達以外、みんながまともにくらってしまいダメージを受けているのだから。

 しかし、他人を庇うために身構えていたダイや、怪我人を背負っていたせいで咄嗟に伏せることのできなかったマァムとエイミがまだいいとして、その時手が空いていたポップなら素直に伏せていればダメージは最小限に抑えられたと思うのだが……実際には、ポップも思いっきりダメージをくらい、誰よりも大袈裟にわめいている(笑)

 このフレイザード初戦では、ポップはとことん気を抜いているとしか思えない。
 ところでこの技は全方向性の無差別的な攻撃技であると同時に、遠方にいるフレイザードの配下達への合図でもある。

 フレイザードがいる地点を中心に地震が発生して、対極の位置に氷魔塔と炎魔塔が出現し、そこから放たれるエネルギーにより炎氷結界呪法が完成する。
 フレイザード本人の力はそのままに、だがそれ以外の者の力や攻撃力を抑えてしまう。 およそ五分の一ぐらいまで能力を低下させてしまうのだから、卑怯にも程がある技だ。


 ポップが閃熱呪文を放とうとしてもそもそも呪文がいっさいでない上、マァムの魔銃弾も作動しなかった。エイミの使っていた回復魔法だけは多少は効果があったので、呪文は完全に使えないというわけではなさそうだ。威力を抑えられるせいで低レベルの魔法なら発動さえ出来ない、と考えた方がいいのかもしれない。

 フレイザードが自信たっぷりに炎氷結界呪法こそが、自分の軍団の究極戦法だと宣言しているがそれも頷ける話だ。
 ダイは果敢に戦いを挑んでいるが、さっきと同じように切り付けてもフレイザードにはまるでダメージを与えられず、逆に敵からの攻撃は大きなダメージとなってしまう。

 あまりにも卑怯な戦法にダイが正々堂々と戦えと非難するが、その際、フレイザードは動じる気配も見せない。ダイ達の言葉に動揺したクロコダインやヒュンケルと違って、フレイザードの心には悪い意味でブレがないのだ。

『オレは戦うのが好きなんじゃねえんだ……勝つのが好きなんだよォオッ!!』

 フレイザードは出番が短い割には言動が極端であり、強烈な印象を残すキャラクターではあるが、この台詞にこそ彼の本質がはっきりと現れている。
 勝利を獲得することだけを望み、それを最優先にするフレイザードはその過程を顧みようとはしない。

 実力的に相手に勝てないと判断した途端、手段を選ばず、策を弄してでも相手の足を引っ張って優位に立とうとする……敵に回すには非常に厄介な相手である。
 自分自身の手柄に固執するフレイザードは策士としての印象は薄く、むしろ粗暴さや残忍さの方が目立つ。

 だが、もし彼が安易な勝利ではなく、成長に目覚めたのだとしたら。
 のちにハドラーが生まれ変わった様に、フレイザードにも成長による変化は望めたかもしれない。

 自身の手柄のみを追及するのではなく、魔王軍全体……もしくはハドラーの勝利のために。
 経験を積んで自身の暴力性を抑えることができるようになったのなら、フレイザードはザボエラを超える軍師として活躍したかもしれないと思えるだけに、少しばかり残念だ。

 

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